小学生でクラリネットをはじめて、30年以上吹き続けてきたという陸上自衛隊「中央音楽隊」の植竹友和1等陸曹。今では中央音楽隊のコンサートマスターとして、約80名の演奏者たちを束ねる立場だが、音大で学んでいた当時は自衛隊の音楽隊の道は思いつかなかったという。植竹1曹はなぜ自衛隊に入隊したのか。“自衛隊の音楽隊”にまつわる裏側を聞いた。(全2回の2回目/#1から続く)
◆ ◆ ◆
なぜ自衛隊の音楽隊に入った?
――そもそも植竹さんはなぜ自衛隊の音楽隊に入られたのですか。
「私は音大を卒業してからしばらくフリーランスのミュージシャンとして活動していたんです。そのときに音大の先輩がちょうど陸自の中央音楽隊でコンサートマスターをしていまして、『興味ないか?』と。それから先輩に話を聞いたり定期演奏会に行ったりして、おもしろそうだなと興味を持ちました。ただそれ以前は全く知らなくて。演奏会でもたくさんのお客さんが来ていて、ファンもいる。へえ、そういう世界があるんだ、という感じでしたね」
――音大時代には考えもしない道だった。
「最近は注目していただく機会も増えて、自衛隊の音楽隊を目指す人も出てきています。ただ私たちのころは“自衛隊の音楽隊に憧れて”という人はほとんどいなかったと思いますよ。私自身もそうでしたし(笑)。音大時代は、クラリネット1本で食っていくという感覚でしたから」
9割が音大卒「入るのは簡単ではない」
――入隊に際してはテストのようなものがあるのですか。
「入隊試験のほかに、実際に演奏して、素養があると認められた人だけが音楽隊要員になれます。私が入隊したときには音楽科で20人弱の同期がいたのですが、9割が音大卒。残りの人も音大に進学するか、自衛隊に行くか、というレベルで個人レッスンを受けているような人たちです。だからレベルは高い。音大を卒業していれば誰でも入れるようなところではないと思います。しっかりした技量があって、さらにこの子は伸びると認められてはじめて合格する。
例えば私のクラリネットにしても、毎年何十人もの奏者が音大を卒業して世に出てくるんです。そのみんながクラリネットで食っていけるかというとそうではない。8、9割はクラリネット以外の道を行くというのが音楽業界の常識です。だから、自衛隊も入るのは簡単ではないですよね。音楽職種といっても音楽ができればいいわけでもなくて……」
――音楽以外に求められるものがあるということですか。
「入隊試験でも普通の自衛官志望者と同じ学科試験などを受けるんです。合格して入隊しても最初は一般の自衛官同様、新隊員の訓練がありますし、今でも毎年体力検定がある。階級が上がればそのたびに訓練も受けなければいけないですし……。そこはもう自衛隊ですから、体力勝負の世界です」