日本が大健闘したラグビーのワールドカップ(W杯)が終わった。

 大会開催国の日本が得た最大のレガシーを問われたら、選手が試合後に見せたノーサイドの精神を挙げたい。ラグビーが重んじる敗者のあり方が、大規模な報道によって日本で広く知られるようになったのは良かった。スポーツの本質を考えるうえで欠かせないものであり、日本のスポーツ界に足りないものだからだ。

敗者スコットランドの堂々とした姿

 10月13日、日本に敗れて予選プール敗退が決まったスコットランドがフィールドに整列して花道をつくり、拍手で勝者を称えた。試合中に胸倉をつかみ合った田村優とリッチーが握手を交わした。ラグビー好きにはなじみの光景なのだろうが、普段ラグビー中継を、まして試合後のやり取りまで見る機会のない人には、敗者スコットランドの堂々とした姿が衝撃的だったはずだ。

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スコットランド戦、ノーサイドの瞬間 ©JMPA

 過去8度のW杯で予選ラウンド突破7度の強豪が、一度も決勝トーナメントに進んだことのないアジアの国に敗れ、大会から消えた。スコットランドの落胆の大きさは想像できる。だが敗戦を嘆くような姿はなかった。所作が体に刷り込まれているのだろう。

 ゲーム主将のレイドローは、日本と健闘を称え合い、インタビューで「日本が素晴らしかった」と話し、その後観客席に向かってあいさつをする段になって涙を流した。

「ドーハの悲劇」に座り込む選手たちにラモスは……

 フランス文学者の蓮實重彦氏は、サッカー日本代表が1993年にW杯初出場を目前で逃したいわゆる「ドーハの悲劇」について語り、ラモス瑠偉が座り込む選手たちを立たせようとしていたことを指摘した。外国出身のラモスに、そのような振る舞いをされてしまったとして「本当に恥と言うほかない」と述べている(「スポーツ批評宣言 あるいは運動の擁護」青土社)。

1993年、ドーハの悲劇で座り込む選手たち ©文藝春秋

 実際に映像を見ると、ラモスもその後座り込んではいる。ただ、立ってイラクの選手、監督と握手を交わす姿が見られたのは確かにラモスだけだった。ホイッスルが鳴ってから3分ほどたったころ、オフト監督が選手の間を回って立つように促し、そのさらに数分後に選手は立ち上がってピッチを離れた。

 勝利を義務付けられた一戦で敗れたスコットランドと、夢をつかみかけたところで現実を突きつけられた当時の日本のショックの度合いを比べるつもりはない。それでも、選手の振る舞いに天地ほどの差があるのは確かだ。