デモの中心人物が見当たらない
――ネットを利用した組織が見えないデモというのは、デモを仕掛ける側の戦略的な手段なんでしょうか? なまじはっきりした組織があると、取締る側もその中心人物を捕まえればデモを抑えられますよね。
陳 それは実際のところ、中心人物がいるのかいないのかわからないので、戦略かどうかもはっきりしません(笑)。香港政府としても、中心人物がいたら捕まえたいけれど、見当たらないので手の打ちようがないというのが実際のところだと思います。
私は集団心理を利用した犯罪を描いた日本映画「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」を思い出しました(笑)。
――文善さんも『逆向誘拐』の中で、誘拐の身代金の引渡しトリックにネットを使った集団心理操作を用いていましたね。(文善氏は2013年に『逆向誘拐』で第3回島田荘司推理小説賞を受賞)
文善 じつは『逆向誘拐』は去年、香港で映画になったのですが、最近になって現在の香港の状況を予見した作品だとSNSで評判になって、上映される機会が増えているんです。
――文善さんは1997年の香港返還を機にご家族でカナダへ移住されました。国外で暮らす香港人の立場から、今回の事態をどう見ていますか。
文善 カナダへ移民した香港人も多くはデモを支持しています。香港同様、年配の人に中には反対する人もいますが、若い世代ほどデモ支持派は多いと思います。
じつは先日、トロントで香港のデモを応援するイベントを開催しようという動きがあったのですが、中国系の人たちが反対してイベントは実現しませんでした。カナダには中国から来ている人たちもたくさんいるんです。
今後の推移、そして結末は
陳 いま警察は強大な権力と強力な武器を持っていますが、それでも人数という面では市民の方が圧倒的に多いわけです。これまで警察はだいたい1400人の市民を逮捕したと言われていますが、ネットでは「政府は香港には2000人の暴力的な市民がいて、その2000人を逮捕すればデモは収まると思っている」という説が流れています。これもあくまで噂で、「2000人」という数の根拠も不明です。
――謎の「2000人説」ですね。政府サイドか市民側か、いったいどういう人がこういう情報を流しているんでしょう。
陳 そういえば先日、文春オンラインに立法会議員の田北辰氏のインタビューが載っていましたね。
田氏は中立的親中派といった立場の人で、「G2000」というユニクロのようなアパレルブランドの創業者でもあります。私がいま着ている服もG2000で買いました(笑)。
田氏も警察の人員の少なさに言及していました。また、デモに参加している人たちの中に、「数百から1000人の極端に暴力的な人々がいる」とも。
――最初のデモからすでに100日以上が経過していますが、いまだに着地点が見えません。これから先、事態はどのように推移し、どのような結末を迎えるとお考えですか。
陳 先行きを予測するのは本当に難しいですね。ただ、11月24日に区議会議員選挙があり、来年には立法院総選挙があります。この二つの選挙でどのような結果が出るかが、今後の香港の行方を左右することになると思います。私も注視したいと思っています。
(2019年9月26日 台湾台北市にて)