黒っぽい蛇が巻きついている!?
しばらく行くと、「蛇石(龍石)」の看板が見えてくる。上流の南又谷の河原に、白い花崗岩に黒っぽい蛇が巻きついたような文様が見える。なぜ、この石を特別視していたのか。それは、「東山円筒分水槽」にも通じる話だが、川の枯渇が影響しているという。
「片貝川は夏に枯れることがあります。そのため、古くから、雨乞いをしてきたとされているんです。地域の小学生は郷土学習に訪れることもありますよ」(伊東さん)
この石を叩くと豪雨があるともいわれているなど、蛇石にまつわる民話も残る。
「今でも、毎年春には、雨乞いの神事が行われていますが、神聖な行事なので、一般には非公開なんです」(同)
巨大な洞杉の群生に感じる大自然
さらに上流に行くと、「洞杉」が群生をしているエリアに到着する。「洞杉」は、幹の内部が空洞になっている、というのが名前の由来だ。見た目では、すべて大きな岩を抱えている。岩は火山活動によって形成されたものだ。
「岩には苔が生えますが、そこに杉の種が落ちる。苔があれば水分を十分に保つことができる。杉は、芽になったときに、その上に落ち葉などがあると育つことができません。岩の上なら落ち葉があっても、風に吹かれて除かれ、杉が育っていく。しかし、成長とともに、雪が幹を圧迫し、横方向に伸びます。数十年立つと幹が立派になり、まっすぐに伸びていきます」(同)
こうした杉が岩の上にいくつか生えると、杉同士が絡み合い、中心部は空洞になる。一方で、岩を抱えるようにして、巨木へと育っていく。岩を抱えている木は珍しい。一つひとつの洞杉が個性的で、大自然を感じる。
群生地の入り口には「杉ノ尾の岩屋」が目に留まる。岩の部分がやや突き出しており、猟師が狩猟基地として、米や味噌を運び入れ、冬に備えたという。雨風や雪除けに使っていたと言われている。
奥へ進むと、最大の「洞杉」を見つけることができる。4本株立ちのもので、幹周りの合計が30.1メートル。このうち、一本として最大の太い幹は15.6メートルあり、環境省がかつて行った「巨樹・巨木調査」によると、新潟県の将軍杉や、鹿児島県の屋久杉についで3番目の巨木だ。
どうしてここまで残されたのか。かつて加賀藩は、領内の杉の伐採を厳しくしていた。片貝谷では、マツ、スギ、キリ、カシ、ツキ、ヒノキ、クリの7種を切り出すことを取り締まったからという。
自然環境の偶然の産物と、そこに住む人たちの歴史や文化の結果、「洞杉」を今でも見ることができる。この地で生きてきた人たちに思いを馳せることができる観光でもある。そして、岩を抱えた杉なんて、まさにインスタ映えだ。
海沿いをドライブしながらの観光もいいが、遊歩道を歩き、自然と触れ合う観光もよい。ただ、海側に比べると、まだまだ知られていないような気がする。
それにしても、魚津市の、山側だけでも1日で回ることは体力が必要だが、数日間、滞在して、回るのもよし。リピーターになり、何度か訪れて、ゆっくり制覇するのもおすすめだ。
取材協力=片貝地域振興会
写真=山元茂樹/文藝春秋