文春オンライン

特集移動編集部

なぜ「ヤギ」を飼うことが限界集落の活性化につながったのか

なぜ「ヤギ」を飼うことが限界集落の活性化につながったのか

海だけではない、魚津市の魅力 #1

2019/11/22

 標高300メートルほどの里山から海の方角への眺めは格別だ。ここは富山県魚津市の「小菅沼・ヤギの杜」。美しい棚田を見ることができると思えば、遠くに見える海と対比もできる。山と海が近いのが魅力だ。そこに「ふれあい広場」があり、11月11日は、市内外から多くの人が集まってきていた。

(全2回の1回目)

「小菅沼・ヤギの杜」からの風景

 この日の会場には、収穫されたコキアが用意されていた。「コキア」というと聞き慣れないかもしれないが、和名は「ホウキグサ」。円錐形で、昔は、その茎がほうき作りに使われていた。今回も、参加者はコキアを手に思い思いにほうき作りに没頭した。これは3年前から始まった「コキアの灯りプロジェクト」の一環だ。

ADVERTISEMENT

ヤギの放牧に、コキアを植えるプロジェクトも

 ここは限界集落で、住民登録している人は数人いるものの、実際に住んでいる人はいない。耕作放棄地も多数あった。そのため、2007年から鳥獣対策の一環でヤギを試験的に放した。ヤギがいると、他の動物がエリア内に侵入しにくいのだという。その後、地域活性化のため、中山間地地域活性化グループ「小菅沼・ヤギの杜」(金森喜保代表)を結成した。原野となっていた耕作放棄地を整備しようと、2年がかりで復元した。

「ただ、農地を復元しただけでは物足りない。何かを植えようと思って、コキアを植えるプロジェクトを始めたんです」(金森代表)

「コキアの灯りプロジェクト」は年間を通じた取り組みで、コキアのタネを植えて、草刈りをし、観賞会をして、収穫にいたる。コキアは育つと緑になるが、10月始めには赤くなり、11月になると黄色に変色する。

収穫されたコキアが吊されている

 活動拠点の「ふれあい館」を作り、「ふれあい広場」には「ツリーハウス」も設置して、訪れた子どもたちが遊べるようにした。さらに遊歩道を整備し、自然観察ができるようにもした。

古代米、きのこ、とんぶりにイクラ

 2010年には、ヤギの絵を描く「稲作アート」を始めた。特産品は、稲作アートをしている田んぼで作っている古代米のほか、棚田米、山菜、野菜の漬物などがある。

田んぼに描かれたヤギの絵

 イベント時に採取したきのこは、キクラゲやシイタケ、ヒラタケ、ナメコ。汁物の具に使った。

 また、コキアの実を加工して、「森のキャビア」とも呼ばれている珍味「とんぶり」に。この「とんぶり」をいくらと一緒に古代米に乗せて、参加者に振る舞っていた。筆者は、これに生卵を乗せて、贅沢に食した。

イベントで採取されたきのこ
どっさりと具が入ったきのこ汁に

 

古代米に「とんぶり」と地元産のいくらを乗せて

 そのほか、会場では熊肉や猪の肉を焼いていた。熊肉はやや歯応えがあり、噛み切るのに時間がかかったが、猪の肉はやわらかくジューシーで、多くの参加者に人気だった。