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ドロ沼化した男女の騒動が“因習結婚の崩壊”を知らせた――「初夜」の暴露合戦が世間を賑わすまで

支配・服従の家族倫理が崩れ始めた“ある事件”とは #2

2019/11/28
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谷崎潤一郎は鳥潟に厳しい批評、歌人の柳原白蓮は強く支持

 同特集には父の鳥潟隆三や長岡浩、兄の誠の発言も載っているが、興味深いのは「偽らざる世評に聴く」と題して、そうそうたる人物に感想を聞いていること。

 作家の谷崎潤一郎は「『女性の自覚』何物ぞ」と、やや鳥潟家側に厳しい批評。同じく作家武者小路実篤は「双方の立場に無理はなかった」としつつ、「女性は早く結論に入りすぎた」と感想を述べた。作家倉田百三は「純潔であることは一つの理想だが、信頼することも一つの理想だ」とした。「敬服に値する行動」で「彼女の態度や良し」としたのはジャーナリストの長谷川如是閑。

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 反対に「人任せにしていて、聞かなかったのはおかしい」と「彼女の態度や悪し」としたのが作家直木三十五。ほかに、歌人の柳原白蓮は「勇敢に女の立場から今度のような態度をとられたことを感心致しております」と静子の行動を強く支持するなど、百家争鳴の大騒ぎ。

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当時の大学生が指摘した“鳥潟静子の重大な欠陥”

 婦人公論は1933年新年号で「結婚解消問題是非」を、声明書、覚え書き、挨拶状、診断書などの関係書類も含め、堂々17ページにわたって展開している。冒頭、同誌編集長か編集部員と思われる筆者が「総論」として「当事者はもちろん、皆がこの結婚に対して不忠な態度であったと結論されても仕方がないわけである」と正論を述べている。

17ページにわたる「婦人公論」の「結婚解消」特集

 当事者としては、面会に鳥潟家側の同意が得られなかったとして、本人、父、兄と長岡家側の文章しか載せていない。それにしても、“売られたけんか”を家の面目を守るために買ったとしても、長岡家の人々の饒舌ぶりには驚く。

「結婚解消問題の批評」として、大学生の男女に意見を聞いているのがユニーク。中では、日本女子大の学生の「本当に愛していたら」という文章が目立つ。「男性が処女性を欲すると同じく、女性もまた童貞を要求する権利があって然るべき」としつつ、「鳥潟さんの態度には重大な欠陥があります。たとい親の定めた結婚でも、根本的に愛がなかったのなら、結婚を承諾した鳥潟さんも悪くないとは言えますまい」と指摘している。