「女性としてあまりにも冷ややかすぎる」新しい縁談話が続々と
その後も新聞には関連の記事が載る。「雑誌記者連が殺到の鳥潟邸 鳥潟隆三博士の京都市左京区神楽岡八番地の自宅へ、東京の婦人雑誌記者が殺到してゴッタ返しているほか、各方面の声明書、覚え書き、逆宣伝が乱れ飛んで、博士は無論のこと、当の静子さんや家人を悩ましている」(12月4日付大阪時事)
「憂悶の長岡学士に結婚申し込み 長岡浩君に夕刊既報のごとく、突如として優しい手が延べられた。この救いの主は男爵退役陸軍砲兵大佐籠手田龍氏長女敏子さん(21)で、京都府立某高女を卒業した才媛であるが」
「鳥潟静子さんのあまりに純理一点張りのやり方は、女性としてあまりにも冷ややかすぎるとて、長岡君の悲境に同情し、その結果、一人の女性として静子さんに代わり、長岡君の痛手を温かくいたわってやりたいと決心して、ここにこのめでたい新縁談が持ち上がったものとみられている」(同日付神戸新聞)……。
「新婚初夜の寝室の秘密」に世間は釘付けに
12月5日付大阪時事には「また新妻の結婚破棄」の見出しで、広島県の女性が神戸の会社員男性との結婚初夜、「(夫に)性的欠陥のあることを知り」、姿をくらましてしまったニュースが掲載されている。さらに同日付東京日日にはこんな記事が。
「結婚解消問題映画化 蒲田ではいち早くもこの青春の話題をキャッチして、佐佐木恒次郎監督で撮影中の『男性征服』のストーリーをすっかり鳥潟静子さんの事件に編集し直し、静子さんの役には飯塚敏子が扮して藤岡京子の名で、長岡青年には梶工学士として山内光が扮し、結婚解消是か?非か?を銀幕の上から若人に訴えるという」
確かに、記事通りの松竹蒲田映画「男性征服」が1932年12月11日に公開されている。しかし、当時の「キネマ旬報」の日本映画紹介や日本映画批評を見ても、ストーリーは全く違って、研究者の恋人を献身的に支える女性の話。途中で内容が変更されたのだろうか。
この「事件」の報道に対する世間の反応はすさまじかった。確かに新婚初夜の寝室の秘密が表に出ただけでなく、両家の暴露合戦になったのは、当時でなくても興味を引いただろう。12月4日付報知「まんだん社会時評」では、漫談家大辻司郎が「その日の床屋、お湯屋、喫茶店など、ちょっとこの話で持ち切ったです」と書いている。