記憶人権財団は、ドイツ政府とドイツ企業が拠出して強制労働被害者に補償をした「記憶・責任・未来」財団をモデルとしているという。その理念や問題解決を志向する取組み自体を否定はできない。しかし歴史問題のステージから市民団体を排除しない限り問題は何一つ解決しない。つまり本当の意味での被害者のための財団にしなければ、再び市民団体に財団が牛耳られるか、もしくは潰されるという歴史を繰り返すだけとなるだろう。
「記憶人権財団はその構想もお粗末なものなのです。ポスコ財団の資金と、和解・癒やし財団の残金6億円などをかき集めて、徴用工問題に限らず幅広い補償活動を行うという。しかし、そもそも市民団体の声に流されるように和解・癒やし財団を解散させたのは現政権。それが日韓関係を更に悪化させる一因ともなった。
文大統領は『被害者中心主義』を唱えていますが、その実情は被害者を直視することはせずに、市民運動家のほうばかりを向いているのです」(前出被害者団体関係者)
被害者たちは市民団体や韓国政府と対決の姿勢へ
そうした現実に苛立ちを募らせていた被害者たちは、「徴用工判決から1年 被害者たちが、韓国政府に対して“反撃”を始めた」(文春オンライン10月31日配信記事)でもレポートした通り、市民団体や韓国政府と対決することを辞さない姿勢を強めている。
「会合で同意を表明した出席者は、徴用工だけはなく、軍人軍属や遺族等広く戦争被害者が補償する法案だと思っていた。ところが新聞報道を見て、慰安婦、徴用工等限定された1500人を補償する法案だと知り、みな『騙された!』と怒っています」(同前)
おそらく文議長案は今後、各方面から批判を浴び紛糾することになる。そのとき文大統領は、自ら掲げていた「被害者中心主義」がいかに空疎なものであったのかを知ることになるだろう――。