空港に着いたらそこは中国だった。中国人がベンチに座ってスマホをいじりながら国民的ソフトドリンク「王老吉」を飲んでいる。ここはカンボジアの地方都市なのに。
私が訪ねたカンボジアの海沿いの街「シアヌークビル」は、昔は西洋人バックパッカー(ヒッピー)にひそかに人気のビーチリゾートだったが、今はすっかり中国化したと報じられている。空港では、早速中国人の男性による会話や痰吐きの音が左右から聞こえる。日本円が両替しづらい代わりに従来から米ドルが普通に使えて、加えて人民元も流通している。
まるでバットマンの舞台ゴッサムシティ
現地メディアの「クメールタイムス」によれば、今年に入りすでにカンボジア全土で1000人以上の中国人が逮捕されたとか。カンボジアの中国人絡みのニュースでも、シアヌークビル関連の件数は突出している。詐欺を行っていた数百人を母国中国に強制送還だとか、同胞の中国人を複数拉致監禁していた中国人を逮捕だとか、中国人同士がストリートファイトをしたとか、中国資本による建設中のビルが崩壊したとか、ニュースの数は食傷気味になるほどある。それはまるでバットマンの舞台ゴッサムシティのような街に聞こえる。
一方で、外務省の海外安全情報によれば、「全土で危険レベル1:十分注意してください。」となっていて、シアヌークビルだけ特別悪い中国人が暗躍しているので渡航をお控えください、とは言っていない。実際に旅行で訪れている日本人もいるようなので、私もこの目で現状を見ようとシアヌークビルに降り立った次第だ。見渡す限り、悪そうな中国人ではなく、中国の地方都市で見るようなゆるい中国人ばかりだ。
2年前から中国人が大挙してやってきた
シアヌークビルの空港から市内までは遠いうえに空港バスがない。より正確にいえば、中国語が話せれば市内のカジノまでワゴン車による送迎バスはある。私はホテルが用意したタクシーに乗り、舗装が不十分なガタガタ道を行く。時々道沿いに見える看板はみな中国語で、中国の奥地を車で移動しているかのようだ。
運転手は44歳になるカンボジア人の男性だ。彼は英語を話せるが、中国語は話せない。昔は西洋人や日本人がやってきたが、2年前からカジノやオンラインのギャンブルビジネス目当ての中国人が大挙してやってきた。外国人観光客が激減、日本人に至っては消えたという。カンボジアでカジノを近々排除する方針にしたことから、最近はカジノ関係者が減って、中国と貿易を行う中国人が残っているという。