文春オンライン

中国人の「ギャンブル」「詐欺」産業が集中するカンボジアのシアヌークビルに潜入した

マッチョな兄貴たちが闊歩するパラレルチャイナ

2019/11/29
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中国の街を完全再現しようと計画

「中国は嫌いだが、息子や娘も養わなければならないなかで、この仕事がどこまで続くかわからない」とカンボジア人ドライバーは恨み節をずっと語っていたが、会話の途中で一旦車を止めて男性はこちらを向いた。「ここから見えるのがチャイニーズエリアだ」――高台から見下ろした先には、中国を長く見ている私にとって見慣れた中国あるあるの高層建築物が無数に建っていた。開発ラッシュだ。

 シアヌークビルの街中に入ると、さらに「中国らしさ」は増していく。大通りも中国語で書かれた建物が目立つが、中心部で裏通りに足を踏み入れると、いよいよほぼすべて中国語の看板ばかりとなっていく。肝心のカンボジア人がやりくりする店舗のほうが少ないくらいだ。

 カジノがある中心部から離れたエリアは通称「中国城」と呼ばれており、中国式団地までも複数建てられ、中国の街を完全再現しようと目下計画が進んでいる。中国城にカンボジア要素は皆無で、むしろ中国の地方都市そのものと化している。「中華街」なんて表現が甘っちょろく見えるほどに、どうみても中国の片田舎の街そのままだ。ときおりカンボジア人と話すときだけは、ああ外国なんだなと我に返る。

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シアヌークビルの繁華街もまさに中国

中国式管理が抜けた、パラレルチャイナ

 今の中国にあって、シアヌークビルにないものがある。監視カメラだ。逆に今の中国からは消えて、昔の中国のようなシアヌークビルにあるものもある。工事現場のトタンの壁や街角のコンクリート塀に貼られた闇金やギャンブルや風俗業者の貼り紙だ。おっさんの街だからか、中国ではよく見かけるクレーンゲームの代わりにカジノのほかギャンブルゲーム台や入れ墨屋が目立つ。

 最近の中国は違法サービスを排除し、市民を監視することで中国式の「よりよい社会」を構築している。シアヌークビルは中国式管理が抜けた、パラレルチャイナになっていた。

貼り紙だらけのトタン看板

 店の名前を見てみると、中国本国でお馴染みのチェーン店がある。日本にも進出した火鍋チェーン「海底撈火鍋」が住宅地にしれっとあるほか、街歩きをしていると有名なスーパーの名前を冠した個人商店や、街の家電屋程度にコンパクトになった家電量販店が次々に見つかる。念のため見つけた店の中国サイトを確認しても当該店はリストになく、これらは全部ニセブランドの店舗だ。

ニセのケンタッキーも

 日本で例えるならば、「東横イン」「サイゼリヤ」「丸亀製麺」「ヨドバシカメラ」「イオンモール」といった全国展開のチェーンから、「日高屋」や「スーパー玉出」や「セイコーマート」や「牧のうどん」といった地域限定のブランドまで勝手に名乗る店舗があると思ってもらえればいい。カンボジアのシアヌークビルは、中国のどの都市よりも様々な(ニセ)チェーンが集中していた。