昼間こそ彼らは工事現場にいてのんびりしているが、夜になれば一斉に上半身裸の兄貴たちが戻ってきて、中国の飯屋に入ってはビールを片手に食事をかきこむ。私も食堂に潜入して中国人のふりをしてチャーハンを注文したが、そこでは気が強くて強そうな人や気が弱くて強そうな人が円卓に座り、会話をしていた。たしかにちょっとした誤解で拳と拳で会話しかねない、そんな感じは受けた。
豪快なのは作業員だけではない。建設が急ピッチで進む中国城ではたくさんの大型トラックが往来する。筆者が道沿いの別の中華食堂で食べていたところ、大型トラックが低速ながら店の柱にぶつかってきて驚かされた。しかし中国人店員はちょっと様子を見ただけで、何事もなかったかのように元の場所に戻りスマホをいじり始めた。「大丈夫ですか?」の質問には店員は「大丈夫。よくある」といい、まったく動揺していなかった。
マッチョな兄貴とは別の、怖そうな人たち
マッチョな兄貴とは別に明らかに怖そうな人たちがいる。シアヌークビルで数え切れないほどあるカジノの中の中国人だ。特に経営者であろう中国人は、より近づきがたいオーラがある。会話をこっそり聞いていると、たまたま出身について話し合う会話を聞くことができた。聞いた限りではもともと風俗産業などグレーゾーンなビジネスが多い広東省の深センと広州の間にある東莞という街出身であり、それは例えるなら歌舞伎町が厳しくなったから小岩に移動するような、それをもっとスケールを大きくしたようなものに聞こえた。
利用者も怖そうな人々ばかり。カジノの中はスロットもあるが、バカラがとにかく人気で入れ墨のある中国人中年らがタバコを吹かしながら、初々しいカンボジア人の若者のディーラーの前で米ドル札を置いて賭けていく。ただ、札束が飛び交うような世界ではなく、置かれているのも5ドル札や10ドル札ぐらい。1円パチンコのような庶民的な世界であった。カジノは中国庶民の暇つぶし、そこはマカオではなくシアヌークビルなのである。
もっともダメ中国人が集まりそうなシアヌークビルだが、明らかに善良ともいえる中国人もよく見た。それが(ニセブランドであれ)商店や食堂や宿を開いた中国人だ。彼らはシアヌークビルに進出した知人友人やネットの口コミをみて、これはビジネスのチャンスとばかりに、シアヌークビルに移動して店を構える。中国語で話すと実に本国同様にフレンドリーにいろいろ喋ってくれる。中国人はすぐ転職すると言われるが、遠く離れた異国の街でもさっと引っ越して店を構える。
そうした勢いもあって2年間で一気に、パラレルチャイナは出来上がった。
今後はさらに国際連合工業開発機関(UNIDO)の公認のもと、中国深セン都市計画研究院とカンボジア政府が協力し、シアヌークビルを金融センターの街にするという。さらなる中国化でシアヌークビルは激変していくのは間違いない。
写真=山谷剛史
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