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【追悼】中曽根康弘が若者へ残した“遺言”「日本人としての誇りはあるか?」

1万5000字を超えるメッセージの冒頭を特別公開

2019/11/29

source : 文藝春秋 2015年9月号

genre : ニュース, 政治

note

 戦争を経験した世代の多くは鬼籍の人となり、今や戦争を知らない戦後生まれの世代が各界のリーダーとなっている。終戦直後の食うや食わずの生活からすれば、この70年で日本人は欧米先進国と同じような生活水準を享受できるようになった。自由や民主といった概念、平和主義も国民に受け入れられ、確実に日本社会に定着した。この戦後70年の日本の歩みを歴史的にどう評価すべきなのか。確かに世界に冠たる豊かさを享受するまでに国は発展したが、はたしてその果実ともいうべき国民の心の豊かさを表す精神文化はどうか、国際社会に生きる日本人としての誇りや責任はどうなのか。この節目の機会に改めて考えてみる必要はあるだろう。

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 また、この70年を歴史の通過点と考えれば、我々は過去―現在―未来という歴史の連続性において日本の将来をどう捉え、国民、国家の在り方と世界との関係をどう考えるべきなのか、その進むべき進路とともに日本の姿を思い描いてゆかなければならない。過去をどう考えるかによって、導き出される今も未来も自ずと違ったものとなり得るし、当然、我々世代の解釈や認識の違いによっては国際社会の中で摩擦を生むこともある。戦後、国際社会の一員として平和と協調の道を歩み発展してきた日本のこれからの在り方が問われよう。

あの戦争を振り返る

 戦後70年となる本年、政権を巻き込んでの歴史認識問題が囂(かまびす)しいが、そうした問題も踏まえ、先の戦争をどう捉えるべきなのか。

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 先の世紀を歴史的に振り返れば、20世紀は「戦争と平和」、「不況と安定」の狭間に揺れ動く中で、「非戦」と「自由貿易」の潮流に向って世界が大きく動きつつあった時代と言えよう。国際法的にも20世紀には戦争の非合法化が進み、実態面でも過去の世紀に比べて暴力に訴える争いが確実に減少しているという。

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 20世紀の初頭には、世界に胎動しつつあった脱植民地化の潮流と相俟って国際連盟という各国の利害を調整、解決しようという国際機関が発足する。こうした中で、日本も一旦は国際連盟の常任理事国となるが、満州国の建国を境に孤立化し、追い込まれる形で国際連盟を脱退、世界の民主主義への正統的潮流に反するような形で、無謀な戦争へと突入してしまうのである。

 第2次世界大戦というものを考えれば、それは帝国主義的な資源や国家、民族の在り方をめぐる戦いであり、欧米諸国との間の戦争もそのような性格を持ったものであったといえる。後発国だった日本が、欧米を追い、遅れまいとして、帝国主義的対立の延長線上で起きた戦争であった。それはまた、民主主義を巡る価値的相異から起きた戦争でもあった。