文春オンライン

『クレイジージャーニー』ヤラセ問題 ディレクターはなぜ“一線”を超えてしまったのか?

私たちは「ヤラセ」から生まれた「リアル」を目撃した

2019/12/04
note

新人ディレクターへ交代した初回に発覚

「爬虫類ハンター」の企画は、ディレクターHが2016年から3年間担当し、偶然捕獲したとされる生物11種類を事前準備した。これはそもそも、誰の意思だったのか。番組関係者に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「プロデューサーや総合演出の指示であったとは考えにくいです。番組上層部からすると、ヤラセと言われて受けるダメージと、撮れ高のコストが全然釣り合わないですから、ダメと言うに決まってます。おそらくHは、誰にも相談せず軽い気持ちで事前準備していたのでしょう」

 そのHは、今年の夏、総合演出に昇格した。それに伴って「爬虫類ハンター」の担当が新人ディレクターに変わった。Hからの伝達がうまくいかなかったのか、新人ディレクターの不手際からなのか。その交代1回目で「不適切な手法」が発覚、番組は終了となった。

ADVERTISEMENT

「クレイジージャーニー」からのご報告とお詫び(TBSホームページより)

加藤さんは知っていたのか?

「加藤さんが生物の事前準備を知っていたかどうか。それはわかりません。ディレクターは他人に自分の演出方法を教えないですから。ただ普通に考えると、素人に演技をお願いするほど怖いものはない。できるディレクターなら、まずそんな賭けはしないでしょう」(同番組関係者)

 私は、この番組関係者の言葉には一定の説得力を感じた。過去の放送回を見直しても、加藤さんの無邪気な表情が演技とはちょっと考えられない。ゆえに、ディレクターは加藤さんに事前準備を伝えていなかったと思われる。

【Twitter】爬虫類を捕獲する加藤さんの姿を取り上げた番組アカウント

ディレクターにとって爬虫類は「小道具」だった

 加藤さんが生物を捕獲するときの行動と表情には、嘘・ヤラセはなかった。

 おそらくディレクターが想定した「視聴者が見たいもの」とは、加藤さんが研究している「爬虫類の現実」ではなく、ユニークな動きで生物を捕獲する「加藤さんのリアル」だったのではないか。その考えに純粋になればなるほど、爬虫類は取材対象ではなく、加藤さんをひきたたせるための「小道具」になる。そうなると生物の事前準備は、加藤さんの最高のリアルを撮影するための「仕込み」とも捉えられる。