10月21日、TBSの人気バラエティー番組『クレイジージャーニー』が終了した。8月14日放送の番組で、爬虫類ハンターが偶然捕獲したとされる生物6種類のうち、4種類が事前に準備していたものだったと判明。さらに過去10回の放送でも、捕獲した生物のうち11種類が事前準備したものと分かり、TBSは「不適切な手法」で視聴者の信頼を損なったとして、番組を終了させた。

【Twitter】番組MC松本人志のツイート


「全てのクレイジージャーニーがヤラセだったと誤解しないで下さい。あの番組ではマジの素晴らしいクレイジージャーニー達とたくさん出会えました」(松本人志、ツイッターより)

 TBSは「スタッフによりますと」という前置きで、爬虫類ハンターと呼ばれた専門家の加藤英明さんには事前準備の存在を伝えておらず、またこの企画以外では同様の手法は見つからなかったと発表している。

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 私はCMディレクターやドキュメンタリー映画の監督として、15年近く映像を作り続けている。作り手として言えることは、作為のない映像など存在しない、ということだ。客観性を求められるニュースであろうとも、必ず何かのねらいがあり、それを達成するための演出(“ヤラセ”)がある。

 私は、今回の一件を『クレイジージャーニー』がバラエティー番組の顔と、ドキュメンタリー番組の顔という二面性を持つことから起きた悲劇と考える。お笑いタレントの番組として見ている人には、アリの演出だった。しかし、硬派な専門家のドキュメンタリー番組として見ていた人には“ナシ”のヤラセだった。

「不適切な手法」と「ヤラセ」の境界線

 今回の件に関して同番組のMC松本人志はツイッターで「ヤラセ」とはっきり書きつつ、番組の他の部分を擁護した。確かに一般視聴者の立場で語れば、事前準備は「ヤラセ」と言われて当然だ。一方で、制作したTBSは「不適切な手法」という控えめの表現をした。この差は何か。

 一般的にテレビ業界では「ないもの」を「あるもの」にすることを「ヤラセ」と定義する。「UFOを見てない!」という人に「UFOを見た!」と言わせたらヤラセだ。しかし、この定義には抜け道がある。「事実の再現」はヤラセではなく“アリ”なのだ。

TBS本社 ©AFLO

 例えば、電車が駅のホームに到着するところを、ある出演者が見たとする。しかし、カメラが1台しかなかったため、出演者の表情しか撮影できていなかった。だからもう一度別の時間帯に電車を撮影し、編集でこの二つを組み合わせて電車到着シーンにした。これは電車が到着したという「事実の再現」だから“アリ”となる。

 では、出演者が実際に電車の到着を見ていたものの、カメラがなくて撮影しておらず、もう1回そのシーンを丸ごと再現してもらって撮影したらどうか。それは「ヤラセ」か「事実の再現」か。

 こうした定義の複雑さから、TBSは『クレイジージャーニー』の一件を「ヤラセ」と断定せず、「不適切な手法」という曖昧な表現にしたと推測される。