中国にとって「在韓米軍」は極めて大きな脅威
一方の中国にとっても、朝鮮半島は「一帯一路」戦略に基づき太平洋に進出する足掛かりとして不可欠の要地である。さほど重要な朝鮮半島の南半分(韓国)に在韓米軍が展開していることは、中国にとって極めて大きな脅威になっている。そう見ると、韓国を自陣営に取り込み、在韓米軍を撤退させることが、中国にとっていかに喫緊の課題であるかが分かるだろう。
このような理由から、米国が韓国を切り捨て、在韓米軍を撤退させることは、中国と覇権争いをしている限りはあり得ない話なのである。
米国と北朝鮮が密通している可能性は?
11月23日、金正恩党委員長が西部前線の昌麟島(チャンリンド)防御隊を視察し、昨年9月に韓国と合意した砲射撃禁止を無視して、沿岸砲中隊に射撃を命じたという。このタイミングは、まさに韓国がGSOMIA破棄を「効力停止」とした翌日である。見方によっては、この砲撃は米国が韓国のGSOMIA破棄を押し留めたことに対する“祝砲”にも思える。
なぜ、北朝鮮は韓国が中国陣営に“逃亡”してくるのを嫌うと考えられるのか。それは、朝鮮民族の二つの国家が中国に首根っこを押さえられ、「忠誠競争」をさせられるかもしれないからだ。韓国が中国の陣門に下れば、もっともハッピーな展開としては「北朝鮮主導の南北統一」になるであろうが、それは中国が許さないだろう。ただでさえ統治が厄介な朝鮮民族に対しては、一体的な国家にするのではなく、ディヴァイド・アンド・ルール(分割統治)の手法で南北に骨肉の争いをさせ忠誠競争をやらせるのがオチであろう。金正恩氏はそのことを承知しているのではないか。
祖父・金日成の時代には、北朝鮮は主体思想のもとに中国とソ連の間でバランスを図りながら、自主独立を勝ち得てきた。今日、ロシアを対中カードとしては使えない現状において、金正恩氏は米国にその役割を見出そうとしているのではないか。つまり、米朝関係を育むことこそ、中国の支配強化を回避する術なのだ。韓国と中国の関係改善とバランスを取りながら、自らは米国との関係を改善するのが金正恩氏の外交戦略ではないだろうか。