「お金は経済における血液であり、循環しなければ意味がない」
村上ファンドを率いて平成の日本市場に旋風を巻き起こし、「物言う株主」と呼ばれた村上世彰氏。その波瀾万丈の半生と投資理念は、ベストセラーとなった著書『生涯投資家』に詳しい。現在は投資家として日本経済に働きかける傍ら、子どもたちへの金銭教育に力を入れている。
その一環として、母校である東京大学で、株投資に関心がある中学・高校生とその父母を集めて村上氏の講演会が行われた。お金のプロ中のプロが教える、「お金との正しい付き合い方」をレポートする。
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お金との付き合いが嫌いな日本人
私はシンガポールに移住して10年以上になりますが、世界中で日本ほどお金を嫌っている国はありません。親子でお金の話をまったくしない。このなかで、お父さんの年収を知っているお子さんが何人います? 住宅ローンの額も、一般の家庭では話題にしませんよね。こと程左様に、日本の子どもたちはお金と付き合う機会があまりに少ない。
実は私も、妻に自分の年収を隠していました。ところが、ある事件の裁判ですべて明らかにされてしまった(笑)。ついでに私自身のことを申し上げると、5歳の頃からデパートで商品の値札を見るのが趣味でした。だから、数字には無茶苦茶強い。学校でも算数には圧倒的な自信がありました。東大に入れたのも数学ができたおかげで、国語なんか平均点しか取れていません。で、何を皆さんに申し上げたいかと言うと、お金や経済の仕組みを理解するうえで、まずは数字に強くなっていただきたいということです。
いま日本には上場企業が約3600社あり、年間に稼ぎ出す利益は40兆円ほどになります。このうち、株主に還元されるのは40%です。ちなみに、私が投資の仕事を始めた20年前は10%ほどでした。それ以外のお金はどうなっているのでしょうか? すべて内部留保です。会社が貯め込んでいる。それが毎年25兆円くらいになります。
1990年、日本の上場企業の内部留保の総額は200兆円でした。現在はなんと500兆円にも積み上がっています。何にも使わず、ただひたすら貯め込んできた結果です。こんないびつなバランスシートの国は世界中どこを探してもありません。では、一体何のために? 自分たちの会社が1000年先まで生き延びようとしているからです――。