かつて堤清二からパルコの経営を託された増田通二は70~80年代にかけて、ファッションビルとしてのパルコの運営だけでなく、劇場やライブハウスの経営、パルコ出版の立ち上げなど、若者向けの文化環境そのものを作り上げるような事業展開を志向していた。
それはセゾングループの資本力に担保されたものではあったけれども、大衆に文化へのアクセス権を開いていく意志がその仕事のなかには確実にあったと思う。
サブカルチャーやハイカルチャーを扱っていても、それを選民的・排他的に洗練させていくのではなく、それこそ子どもにも届くように広く開いていくような志向。約170坪のパルコブックセンター渋谷店も、そういう文脈における窓口のひとつとして機能していたところがあったのではないだろうか。
そういう諸々の窓口が断たれていったとき、(私自身もそのひとりである)持たざる大衆が、文化や知識に触れる機会そのものが減少していってしまうのではないかという恐怖心が、私にはある。インターネットはもちろんその機能の一部を果たし得ると思うが、誰もが自由に出入りできる現実のパブリックスペース=「場」の機能は、ウェブ空間では置き換えが効かない。
文化や知識を開いていく志向を、いかに織り込んでいくか
個人的には、今後の日本の本屋は恐らく、ナショナルチェーンによるメガストア店舗と、個人経営も含めた極端に小規模な店舗との二極化が、更に進行していくのだろうと思っている。
「中間領域的な本屋」はこれからますます成立し難くなっていくだろうが、ビジネスの問題である以上これはある意味で仕方のないことだ。ただ、過剰に売れ筋一辺倒になっていくのではなく、逆に過剰に選民的になっていくのでもなく、大衆に向けて文化や知識を開いていく志向を持った仕事や「場」づくりそのものは、忘れられてはならないとやはり思う。
メガストアや小規模店舗の運営のなかに、そういう志向を如何に織り込んでいくかという試みに今の自分は関心があり、私が経営する古本屋・早春書店もその実践の場としてある。パルコブックセンター渋谷店も含め、過去に自分に新しい世界への扉を開いてくれた様々な本屋の仕事の在り方を、時代に即した形で自分なりに継承・展開していきたいと考えている。
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