短い。簡潔であるが、その分ピックアップできる単語も少なくなってしまう。それでは、ここまでは名詞を選んできたが、あえて名詞ではない単語を選んでみるのはどうだろう。たとえば、「はっきり」。
はっきり(副)①物の輪郭、物事の区分や言葉の意味・内容などがよく弁別される様子。「頭が〔=頭の働きが〕―する」〔大部分の用例の対語は、ぼんやり〕②〔見通し・傾向・態度などが〕どう・である(なるの)か、よく分かる様子。「―した〔=確定的な〕事はまだ分からない・―〔=決定的に〕返事をする・―しない〔=確かに晴れになるとは言い切れない〕天気・病状が―しない〔=思わしくない〕・この際―〔=遠慮無しに〕言っておくが」〔一部の用例の対語は、ぐずぐず〕
長い! 選び放題だ! イェアー!
そう、あえて副詞や形容詞、動詞などをピックアップしてみるのも有効な手段なのだ。〔大部分の用例の対語は、ぼんやり〕なんて面白すぎる記述にも出会えた(新明解国語辞典ならではというか……)。このように、うまく「水切り」ができるかできないかはすべて単語をピックアップする自らのセンスにかかっている。下手な「石の投げ方」というのもちゃんと存在する。たとえば「実行」を選んだあとに説明文の中から「実際」を選んで引いてみる。
じっさい【実際】[一]①実地の場合。「―問題」②物事が・ある(行われている)そのままの姿。事実。[二](副)本当に。
これだけでも相当選びにくくなっているが、比較的聞きなれない言葉から選んでみようということで、「実地」を引く。
うーん。どんどん簡潔になっていってしまう。これではもはや引くだけの単語がなくなってゆく。言い忘れていたがこのゲーム、「同じ単語を二度引いてはいけない」のである。なので当然、説明文がたっぷりある単語の方が引きやすくて良いわけである。下手な引き方をしてしまうと、同語反復に陥ってゆく。そうなると言葉が、投げ損なってしまった石のように水面にポチャンと沈む。それが国語辞典の怖いところだろう。辞書というのはわりと、平気で自己言及をしまくるのである。そのサイクルに陥ってしまうと、こちらの「負け」だ。いかに自己言及をしている項目を避けるか。そのためには、より多義的な単語を嗅ぎ当てるための嗅覚が要る。「実行」や「実際」を見てもわかる通り、抽象的な単語だからといって多義的だとは限らない。今までに触れてきたボキャブラリーの量がものを言うのである。
★次回は「現場」ということばの“水切り”からスタートです! 辞書を使ってどのくらい遠くまでいけるか?