忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。
今日は尾崎世界観さん。
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バンドを始めてからもうずいぶん経って、色んな事に慣れてきた。その中で、いまだにどうしても慣れないのがこれ。
「このバンドは、ずっと同じメンバーでやってるんですか?」
という質問。
毎回、言葉に詰まる。嘘をつくのは気がひけるし、一人ずつ説明するのは面倒くさい。
野球チームを作れる程のメンバーチェンジ。本当にそれぞれ、色んな辞め方があった。
「その度に辞めてしまおうかと思ったけれど、どうしても音楽だけは辞められなかった」
インタビューでこう話せば美談になる。それでも頑張ったと、「涙の数だけ強くなれる」岡本真夜方式でまとめたら、都合よく綺麗におさまってしまう。
でもそれは違う。辞めていった人達の色んな物を吸い取ってここまで来た。それはパチンコの台のようなものだ。直前まで散々金を突っ込んだ誰かの執念を使って、なんとなく台に座った途端、あっけなくフィーバーする。
パチンコの事はよく知らないけれど、この感覚はよくわかる。
あの時どう思っていたのかが気になる。薄暗くてタバコ臭い、スタジオのロビーを出て行く時の感覚。いつも、そこに残った事しかないから。どんな気持ちで出て行ったのか。それまでの事、それからの事。残った方にはわからないから。
この小説には、それまでとそれからが書いてある。誰も見捨てずに、全部書いてある。
「よく頑張ったね」と言われたいわけじゃないけれど、「この裏切り者」と言われるのは怖い。
恨みなんてないけれど、今更になって感謝の気持ちを伝えるのも、なんかおかしい。
ある日突然、あっけなく終わりは来る。だから続ける。
これからも頑張っていきます。
「アスファルトに咲く花のように」