忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。
今日は尾崎世界観さん。

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あとかた (新潮文庫)

千早 茜(著)

新潮社
2016年1月28日 発売

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 バンドを始めてからもうずいぶん経って、色んな事に慣れてきた。その中で、いまだにどうしても慣れないのがこれ。

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「このバンドは、ずっと同じメンバーでやってるんですか?」

 という質問。

 毎回、言葉に詰まる。嘘をつくのは気がひけるし、一人ずつ説明するのは面倒くさい。

 野球チームを作れる程のメンバーチェンジ。本当にそれぞれ、色んな辞め方があった。

「その度に辞めてしまおうかと思ったけれど、どうしても音楽だけは辞められなかった」

 インタビューでこう話せば美談になる。それでも頑張ったと、「涙の数だけ強くなれる」岡本真夜方式でまとめたら、都合よく綺麗におさまってしまう。

 でもそれは違う。辞めていった人達の色んな物を吸い取ってここまで来た。それはパチンコの台のようなものだ。直前まで散々金を突っ込んだ誰かの執念を使って、なんとなく台に座った途端、あっけなくフィーバーする。

 パチンコの事はよく知らないけれど、この感覚はよくわかる。

 あの時どう思っていたのかが気になる。薄暗くてタバコ臭い、スタジオのロビーを出て行く時の感覚。いつも、そこに残った事しかないから。どんな気持ちで出て行ったのか。それまでの事、それからの事。残った方にはわからないから。

 この小説には、それまでとそれからが書いてある。誰も見捨てずに、全部書いてある。

「よく頑張ったね」と言われたいわけじゃないけれど、「この裏切り者」と言われるのは怖い。

 恨みなんてないけれど、今更になって感謝の気持ちを伝えるのも、なんかおかしい。

 ある日突然、あっけなく終わりは来る。だから続ける。

 これからも頑張っていきます。

「アスファルトに咲く花のように」

尾崎世界観(おざきせかいかん)

尾崎世界観

クリープハイプのフロントマン(vo、g)&ソング・ライター。2012年4月にアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャー・デビュー。前作から約半年ぶりとなるニューシングル「破花(はっか)」が、3月23日に発売。5月5日上野恩賜公園水上音楽堂にて「尾崎世界観の日 特別篇」を開催予定。

HP http://www.creephyp.com