長く生きていれば、ギョッとすることはあるものだ。経験上、「これはこういうものだ」という固定観念が強ければ強いほど、それと異なることを体験した時の衝撃は大きい。
今回は、初めて経験する人は間違いなく驚き、慌て、悲嘆に暮れる、ある症状のお話です。
「どうしよう……」避妊具のなかに“真っ赤な精液”
Yさん(38)は結婚2年目。仕事でしばらく続いていたあるプロジェクトがひと段落し、解放感に浸った夜のことだった。久しぶりに奥さんと早めの食事を済ませると、久しぶりにいい雰囲気になったので寝室に向かい、久しぶりにコトに及んだ。
コトが終わって事後処理にあたったYさんは、思わず息をのんだ。装着していた避妊具の内容物が、真赤な血で染まっているのだ。
本来その液体は白色であるはずで、それまでの人生でも、またこの先の将来においても、白色以外のそれを見るとは考えたこともなかった。固定観念が打ち破られたのだ。
奥さんも同様で、あきらかに動揺している。
「どうする?」
「どうしよう……」
思いがけない淡々とした医師の対応
翌日彼は、生まれて初めて泌尿器科を受診した。
「どうされました?」
コトがコトだけに恥ずかしかったが、コトの重大性を考えると恥ずかしがってもいられない。
「じつは、精液に血が混じってまして……」
かなりの勇気を振り絞ってそう告げると、医師はそれほど驚く様子もなく答えた。
「そうですか。では一応検査をしましょう」
Yさんとしては、自分の告白を受けた医師はきっと驚愕し、看護師を呼んで急いで手術の日程調整の段取りをすると、今度は自分に向かって声を潜めて「ご家族と連絡は取れますか」と訊ねてくるくらいの想像をしていたのだが、医師の対応はあまりにも淡々としていた。