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手術も覚悟していたのに「呆気ない診断」が

 採血と採尿をすると、看護師に別室へと案内された。

「ここで精液を採取して下さい」と言い残すと、看護師は部屋の鍵を閉めて出て行った。部屋にはソファとテレビ、それに数枚のアダルトDVDが用意されていた。

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 一連の検査を終えると、再び診察室に呼ばれて、先ほどの医師による説明を受けた。

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「特に問題はないようです。しばらく様子を見ましょう」

 手術も覚悟の上で受診したYさんは呆気に取られていたが、医師はやさしく語りかけた。

「驚かれたと思いますが、大きな病気はなさそうです。しばらくは精液に血が混じることがあるかもしれませんが、そのうち元に戻るのであまり気になさらないでください。1カ月後にもう一度お越しください」

 昨夜の衝撃がまだ消えないYさんは、医師の言葉に安心したような、でもやっぱり安心しきれないような不思議な気分で帰途についた。

人類史上でも古くから記録が残っている疾患「血精液症」とは

小路直医師

「血精液症という症状で、泌尿器科の患者さんには決して珍しいものではありません」

 と語るのは、東海大学医学部付属病院泌尿器科准教授の小路直医師。続けて解説する。

「最も多いのは40代ですが、20代から60代まで、どの年代でも発症します。これは人類史上でも古くから記録が残っている疾患の一つで、古代ギリシャの医師ヒポクラテスも、これについて記述しています」

 紀元前400年から世界中の男性たちは、血の混じった精液を目にしては人知れずギョッとしていたのだ。

 Yさんの受けた検査はどのようなものなのか。

「順序としては、まず感染症を疑って尿と精液の細菌を調べます。感染が認められない場合はMRIによる画像診断で精液の通り道の異常(がんや閉塞)を調べることもありますが、Yさんの場合はそこまでの必要性もなかったようですね」(小路医師、以下同)