海外でも賞賛 営業再開後は大盛り上がり
さらに「白木屋の大火」は、「海外の声」の項目で、アメリカ・ニューヨークの新聞「ヘラルド・トリビューン」が社説で火事を論評したと書いている。それによると、「武士道」の見出しで、関東大震災の際も「日本人から一言の泣き言さえ聞かされず、また一片の同情も要求されなかったわれわれ西洋人は、武士道というものがいかに偉大なものなるかを如実に知ったのである」と、火事で示された日本人の性質を賞賛。小冊子は「武士道の華とまで称揚したのはまことに感激のほかはない」としている。最近の「ニッポンすごい!」の風潮にも通じる。
「世論」の項目では、「この事故の犠牲となった白木屋店員に対する同情は翕然(一カ所に集まる)として集まった」と記述。「特に山田専務あて寄せられたご同情、激励の書簡のごときは数千通を超え」たとある。
そうした中で白木屋の株価も急落のあと暴騰。12月24日の営業再開には「定刻前から好奇心も手伝ってわんさと押し掛け、午後1時までに6万人を突破。1時間の間に5たび客止めをしたが、売り上げは火災前1日平均の倍くらいだった」(12月25日付朝日夕刊)という熱狂ぶりだった。
「女の子が降りないんだ。死んでも降りないと言うんだ」
では、「伝説」の真偽はどうか? 「近代消防」1974年6月号には、元警視庁日本橋消防署放水長という大貫金之助という人の「私の消防戦記」が載っているが、その中では白木屋火災の時のことを次のように回想している。
「ハシゴを伸ばして6階のベランダにいた避難者を助け出したわけなんです。その時には袋と綱とハシゴと全部使ってやったわけなんです。袋からちょうど降ろす時に、逸話みたいになりますけれど、女の子が降りないんだ。死んでも降りないと言うんだ。
どういうわけかっていうと、その時分はズロースってもんをやってないんだ。みんな女の子が着物、和服で。それだから、私なんかはね、降りるとか降りないとかいう問題じゃない。降ろさなくちゃならないんだから、命を助けなきゃならないんだから、少々ケガさしても命を助けなきゃならない身分があるんだから、どんどん股へ着物を挟んじゃ、その後から運ぶんですよ。そうすると、すうーとすべっていって下へ降りるんでしょ。そうすると、一人一人降りると、下ではバンザイですよね」