「引っかかる」本たち
地元鎌倉の本もひと味違う。定番のガイドマップや歴史散歩、地域の自然ガイド本などに並んで、鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』を揃えていたりする。コミックスはあまり置いていないが、鎌倉が舞台の『海街diary』や『鎌倉ものがたり』は、鎌倉に来た記念にこの店で買いたいという需要に応えて切らさないようにしている。絵本売り場にも、江ノ電をテーマにした絵本を置いていた。
地元鎌倉の出版社の本もそこかしこに見つけられる。かまくら春秋社や港の人は、地域に根ざしながらユニークな出版をしていることで知られている。港の人から出版されている『珈琲とエクレアと詩人』、この取材をきっかけに拝読したが、切なくて、あたたかくて、しみじみといい本だ。タイトルにあるエクレアは、たらば書房からはJRの線路をくぐって2分ほど、鎌倉駅東口からすぐの喫茶店のもの、今度は取材じゃなくてゆっくり訪れたい。
鎌倉ならではの本と、各ジャンルのちょっと「引っかかる」本、一般的な雑誌や文庫、新書、文芸書などのバランスが面白い。いわゆるセレクトショップのように、選び抜かれた精鋭のみのラインアップではなく、普通に、気軽に買える本に混じって「引っかかる」本があるから目に止まる。「宝探しじゃないですけど、ごちゃごちゃした中に面白いモノが見つかったらいいな」と川瀬店長は言う。多いときは1日200~300点にもなる新刊書籍のリストから面白そうだなという本を仕入れる。その段階では中身を読んでいなくても、タイトルや著者で気になる本は仕入れてみる。ただ並べていても、たくさんの本の中で埋もれてしまうので、気をつけて見ていて、並べ替え、間引くなどの手間を惜しまない。例えば、建築雑誌の売り場に建築家ル・コルビュジエの文庫を置いたら気がついてくれる人がいる。
最近では、本屋に寄ってくれるきっかけになればということで、「たらば通信」というフリーペーパーも始めた。内容も試行錯誤で、すぐに売上げにつながるかどうかはわからないが、反響も出始めている。例えば、「たらば通信」で紹介したことがきっかけで、外国文学の棚からジュンパ・ラヒリさんの『べつの言葉で』が何冊か売れたという。
お客様と積極的にコミュニケーションを取るかどうかについては、自分の好みを知られたり、話しかけられたりして迷惑かなと思うこともあるが、「こんな新刊が出たよ」というようなちょっとしたおせっかいがネット書店との差別化とも感じているという。古書の取り扱いの免許を取り、お客様が探している本を、古書市場で取り寄せることもしている。