指輪が入っているらしい木箱、ネックレスが収まっているらしいプラスチックケース、手紙や葉書、アルバム。奥のほうに何冊か本もある。取り出してみると、すべて絵本で、見覚えがあるものばかりだった。『赤いろうそくと人魚』、『ねずみの嫁入り』、『龍の子太郎』……。その場に座り込み、1冊を取り上げて、ページをぱらぱらとめくっていく。そのうち、ふと気づいた。
すべての漢字に、鉛筆でルビが振ってあるのだ。赤い、青い、来た、走る、食べる、といった小学校1年で習うような初歩的な漢字を含め、ひらがな、カタカナ以外のありとあらゆる文字に――。
小さいときから畑の手伝いをしていたおばあちゃん
そこで思い出した。両親が共働きだった清美は、幼稚園や学校が終わると、ほぼ毎日、この家に来ていた。迎えにきてくれたおばあちゃんとバスに乗った。家に着くと、おばあちゃんはまずおやつをくれた。食べ終わると、絵本を読んでもらった。
一方、母からはこんな話を聞かされていた。おばあちゃんの生まれた家は農家で、父親が戦争で亡くなってしまったため、生活は苦しかった。おばあちゃんは小さいときから畑の手伝いをさせられ、小学校もろくに通わせてもらえなかったと。
今まで気づかなかったが、おばあちゃんはきっと、漢字が読めなかったのだ。でも、絵本好きの清美のために、一生懸命漢字を勉強し、絵本の一文字一文字にルビを振って、毎日、読んでくれたのだ。
清美は思わず絵本を抱きしめた。これは私の宝物だ。結婚して、子供が生まれたら、絶対これで読み聞かせをしてあげるんだ。
その絵本は今も大切に清美の本棚におかれている。