一年も残すところ僅か、そんな季節に腸(はらわた)よじれるほど笑えて、しかも爽やかな余韻を伝えてよこすドラマに巡りあえるとはね。

 いや、年の初めの『3年A組 今から皆さんは、人質です』に始まり、春は『きのう何食べた?』、夏の『凪のお暇(いとま)』と毎期、傑作ドラマはあった。

 だけどね、『俺の話は長い』って、良く出来たドラマとか、笑えて泣ける傑作っていう範疇を超えた、意表を突くドラマなんだ。

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日テレ本社 ©iStock.com

 主人公の岸辺満(みつる)(生田斗真)は珈琲専門店を開くが九か月で頓挫。以来、無職のまま三十一歳になる筋金入りのニート青年だ。

「満君は重箱の隅を突つく競技があったら優勝だね」。そのくらい愚にもつかないディベート能力は高い。

 題名だけみると、ただ退屈な長話をする男の話かと思うが、常識人の思いつかないロジック=屁理屈を駆使して相手を言い負かすパワーが爆笑を誘う。

 生田斗真の長台詞が圧巻の一言に尽きる。ただ巧いだけじゃなく、熱量の高い演技で、ウッ屈したニート青年の小生意気だけど憎めないキャラを造形した。

 満は父の死後、街の軽食喫茶を継いだ母の房枝(原田美枝子)と実家で二人暮らし。そこに姉一家が、家の新築で三か月同居する。

 姉の綾子(小池栄子)と娘の春海(清原果耶)、姉の再婚夫、光司(安田顕)の五人で新生活が始まる。

 ホームドラマという言葉には、どこか微温的でヌルい印象がある。なのにこのドラマの洗練された新感覚ときたら。金子茂樹のオリジナル脚本は、ホームドラマの新境地を開拓した。

 五人の役者は誰もが驚くほど巧い。何度も録画を繰り返し観るシーンがある。満と春海がクルマで海にいく場面とかね。高校受験が目前なのに、春海は同級生に片想い。愛聴するラジオ番組にお悩み相談して、助言どおり告って撃沈だ。

 満も手痛い失恋したばかり。波打ち際で春海に色々な言葉をかけると、「ちょっと黙ってて! 満兄ちゃんに慰めてもらうために来たんじゃないの。海と対話するために来たんだから」

 さすが満の姪。クールな子なんだよ、春海は。でも光司のことを「お父さん」と呼べなかったり、片想いとか悩みはある。それをサラッと喋れる相手は、一家の困り者でニートの満兄ちゃんだけなんだ。

 フーテンの寅さん、ジャック・タチ『ぼくの伯父さん』。困ったオジさんは、家族を悩ませるが、姪っ子には貴重なオアシスなの。

 満に感化され会社を辞めた光司がベースを弾き、満と歌う姿を目撃した春海が一緒に口ずさむ場面、最高だった。それを嬉しそうに陰から房枝が動画で隠し撮り。気づいた春海が「やめてよ、お婆ちゃん!」

 原田美枝子の陽気な未亡人の小悪魔っぷりも最高。

INFORMATION

『俺の話は長い』
日本テレビ系 放送終了
https://www.ntv.co.jp/orebana/