今の政治家には“デジタルどぶ板”も必要
鹿島 じゃあ「政界地獄耳」を読んで「ネットではこんな論議になっているのか」と気付く政治家が普通だったり。
地獄耳 というか、国会議員の中には、ネットというのは怪情報や未確認情報の渦で、いい加減な話が飛び交っている場所だと思い込んでいる人も多いんです。いまだにネットは敵だと思っている議員もたくさんいると思います。
でも一方で、ネットをうまく自分のものにしていかないと、今の政治家はやっていけないはずなんです。
鹿島 僕も絶対にそうだと思います。
地獄耳 自分たちの手に届く話だけを知っていればいい時代は、とっくに終わっているんですよね。事実、今年の参議院選挙ではネットマーケティングを上手に使った、れいわ新選組の山本太郎やN国党の立花孝志、立憲民主党の須藤元気のような人たちが、グンと注目されて伸びた。もともとYouTubeなどを利用して自分のやっていることを見せてきた人たちです。
参議院の比例代表では、何年も前から公認が決まっていて、汗をかきながら全国行脚を続けてきた人たちよりも、よっぽど票を獲得したわけです。一見、お手軽に見える方法かもしれないけれども、彼らはネット世論のつかみ方を知っている人たちでもあった。
鹿島 もちろん、田中角栄や小沢一郎氏のように、一軒一軒回って靴底をすり減らして……というやり方も、いまだに効果があるとは思います。でも、ネット空中戦をやるにはマーケティングも必要だし、同じぐらい“デジタルどぶ板”が必要なんですよね。
地獄耳 デジタルどぶ板、その通りなんです。もっと言うと、毎朝、駅頭に立って演説をやってます、という人が悪いわけじゃない。こういう地上戦も続ければいいんですけど、同時にネットも取り入れたら票は倍になるんです。“リアルどぶ板”ではリーチできない人まで、投票してくれる可能性が広がるかもしれない。これを理解した人と、そうじゃない人。その分かれ道が、はっきりした参院選だったような気がしますね。
鹿島 ネットの議論を「政界地獄耳」が取り上げることで、それが実は永田町では「ほら、こんな世界があるらしいぞ」という窓口になっているわけですね。
地獄耳 もしかしたら、そういう役割はあるかもしれないです。
「どうよ」で聞き出す雑談力
鹿島 永田町という独特な世界に住んでいる人に話を聞くにあたって、地獄耳師匠の独自の取材方法を教えてください。
地獄耳 今時こんな言い方をする人はいないかもしれませんけど、私は「廊下とんび」といって、議員会館のいろんなところをのぞきに行くんですよ。「どうもどうも」って。ところが、王道の政治部の記者って、与党の岸田派だとか細田派担当だとか、派閥が決まっているので、例えば今、与党担当なのに共産党の部屋をのぞいたりすることはできないんですよね。
鹿島 そうか、スパイ扱いされちゃいますもんね。
地獄耳 私は長くやっているので、そんな風にふらふらと無駄な雑談をする中で、例えば「こんな怪文書があるよ」と。
鹿島 はあ~。確かに、雑談力ってものすごく大事ですよね。単刀直入に「この事案について聞きたい」って言っても、正攻法かもしれませんけど、相手は身構えますもんね。
地獄耳 したことないですね。そんな聞き方で、本当のことを言うとは思えないし。
鹿島 地獄耳師匠は、どんな質問の仕方をするんですか。
地獄耳 うーん、例えば議員がいない間、秘書の人たちと雑談していて、「どうよ」とか。
鹿島 ああ、いいですね。地獄耳っちゃ地獄耳ですけど、雑談師匠でもあるわけですね。でもここで言う雑談って、すごくのんびりしたイメージもありますけど、実はヒリヒリした情報戦かもしれない。
地獄耳 聞いたその日に書くことは、あんまりないですけどね。国会議員の部屋で椅子を借りて書く日もあれば、喫茶店で書いている日もあるし。電源があればどこでも書けます。
鹿島 そうか、地獄耳師匠はどこで書いているか分からない。これもファンからするとロマンがありますね。僕、新聞の社説って、絶対にふかふかの椅子に座って、暖かくて広い部屋で書いているだろうというイメージがあるんです。
地獄耳 私は、雑談しながら書いちゃう時もありますからね。時間がない時とか。
鹿島 ああ、面白い。神出鬼没、とんでもないところで書いているかも。さすがは雑談師匠です。
地獄耳 雑談って、出てくるのはよその人の話が多いんですよ。
鹿島 「こんな話があるらしいですよ」って言いたくてしょうがない人がいるのか。すごい心理戦ですね。政治家やマスコミから「政界地獄耳の方ですよね」って言われた時は、どうするんですか?