「桜を見る会」、「身の丈」発言、「上級国民」。2019年に政界を揺るがした問題の中には、インターネットから火が付き弾けたトピックが多かった。日刊スポーツの名物政治コラム「政界地獄耳」を執筆する地獄耳師匠こと(K)と、時事芸人・プチ鹿島が、令和に突入したこの1年を振り返る。(全2回の2回目/前編から続く)

プチ鹿島さん(左)と、(K)さん

「桜を見る会」ツイッター投稿数の多さ

鹿島 2019年の政界も色々ありました。年の瀬には“カジノ疑惑”の一報も入りましたが、下半期は「桜を見る会」に持っていかれた感じがありますよね。公私混同、公選法抵触疑惑、公文書廃棄問題……。ここ数年の論点が詰まってました。「桜を見る会」のツイッター投稿数は、閣僚の辞任や英語民間試験の導入と比べても、多かったみたいです(「『桜を見る会』SNS投稿で突出」、日本経済新聞11月26日)。

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地獄耳 「桜を見る会」もネットが早かったですね。11月以降、「政界地獄耳」で10回は「桜を見る会」にまつわる問題に言及していると思います。このコラム、日曜以外はほとんど毎日書いているようなものだから、ネタ選びに悶々とする日も多いんですが、こういう桜とかがあれば、ネタがいっぱいあるので助かる……とはいえ、ちょっとひどいです。

鹿島 参加者のブログ発信を今さら削除したのもお粗末でした。菅(義偉)官房長官だって、ほんの2カ月くらい前までは涼しい顔で全てに答えていたのに、今では「もしハードディスクまで破棄したということであれば、なぜ、そこまで内閣府がやっているのか。いつ、どこで、誰が、なぜやったのか」と詰問されて……。時に苦笑いみたいな表情が出ちゃってます。

12月12日、記者会見で「桜」の漢字について聞かれ、苦笑する菅義偉官房長官 ©共同通信社

地獄耳 会見でも、あっぷあっぷですよね。菅官房長官は「私人である昭恵夫人が人選に関わった」ことを質問されて「最後は内閣官房が精査する」と答えましたが、それによって自分と首相の両方に責任が発生してしまうことになりました。一時期、安倍さんと菅さんの関係は菅原・河井の2閣僚辞任の時以上にギクシャクしていたようです。

鹿島 それにしても、「桜を見る会」は「小さなこと」なんでしょうか。「産経抄」は《「桜を見る会」をめぐって、小事を天下の一大事のように騒ぎ立てる野党の手法》(11月25日)とご立腹でしたが、僕は人間の本質って、小さいことにこそ表れると思うんです。むしろ天下国家を論じたがっている保守派の新聞が、「こんなことしてたらプーチンやトランプ相手にまともに戦えないぞ」と怒るべきなんじゃないかと。なんか二分されてませんか?

地獄耳 袈裟まで憎い人もいれば、袈裟まで許しちゃう人もいる。桜は論点が多すぎましたよね。「桜を見る会」に招待されたとマルチ商法の営業ツールに使っていたジャパンライフだって、政界の古株はみんなよく知ってますよ。30年以上にわたって被害者がいるんだから、そりゃあいろんな材料があるに決まっていますよね。今、野党のところには桜がらみで相当タレコミが来ているらしいです。

鹿島 僕は、桜の問題が弾ける前から「桜を見る会を見る会」が必要だと思っていました。

《令和おじさん人気が証明された形だが、しかし「桜を見る会」に招かれる人は政権側が呼びたい人でもある。ネットで影響力があるインフルエンサーたちが狙い通りに首相や菅氏の“にこやかな顔”をSNSで発信すればこれ以上ないイメージ戦略になる。》(文春オンライン6月7日)

 この好感度キャンペーンを国民の税金で行うのはおかしいんじゃないかと。

 

地獄耳 いわゆる前夜祭なるホテルのパーティーも焦点の一つになりました。今回、野党の攻勢はそのほとんどが公開情報に基づいていますが、前夜祭は公職選挙法や政治資金規正法に抵触するのか? 野党が立証するのも、安倍サイドが問題ないと立証するのも難しいから、何となくうやむやになってしまいました。それで私は、ウラは取れないんだけど、「機密費の運用」という可能性について書きました。

《最初から官邸機密費がホテルに支払われていれば説明がつくのではないか。金額が足りたとか足りないとかの問題より悪質だが、それも立証するすべはなく首相が別の部分の非を認めることで、機密費の運用という公金の私物化への疑惑をそらした可能性はないか。やはり検証のすべはない。》(日刊スポーツ「政界地獄耳」11月22日)

 ちょっとこれは早く書きすぎたみたいで、どこも後追いしてないですけどね(苦笑)。

「上級国民」の都市伝説がリアルになった

鹿島 地獄耳師匠らしい、絶妙な回でした。ネットの盛り上がりで言えば、「上級国民」も2019年のパワーワードの一つ。4月に池袋の暴走事故を起こした高齢ドライバーに対して、「『上級国民』だから逮捕されないのか」という声がネットにあふれました。あれも紙ベースだけで読んでいたら、なかなか届かない言葉でしたよね。

地獄耳 本当にそう。これ、新聞に「上級国民」の解説なんかがあっても、全然乗れないです。

鹿島 あれだけ話題になったということは、多くの人に「上級国民、どうやら本当にいるんじゃないの?」と思わせる状況が確かにあった。そこが問題です。

 

地獄耳 そもそも上級国民なんかないし、超法規が適用されることはないはずなんですけど、池袋の男性は元通産官僚幹部で元機械メーカーの副社長、さらには叙勲まで受けていました。パッと上級国民と言うだけで、「あ、こういう人のことを言うんじゃないかな」と誰もがイメージできたんですよね。桜の首相推薦枠「60」もそうだし、オリンピックのチケットや聖火ランナー枠、あとはやっぱり萩生田(光一)文科相の「身の丈」発言ですね。これで都市伝説がリアルになった。