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「戦後最悪の日韓関係」2020年はさらに波乱に満ちている理由とは

文在寅政権は、国内世論の動向に敏感にならざるを得ない

2020/01/01
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4月の国会議員選挙で敗れれば、政権は一挙にレイムダック化する

 しかしながら、文在寅政権の置かれている立場は違う。2020年の韓国の政治スケジュールにおいて最も重要なのは4月に行われる国会議員選挙であり、この選挙で勝利するか否かによって、政権のその後の命運は大きく左右されることになる。仮に文在寅が、自ら与党「共に民主党」内のヘゲモニーを握ったままで候補者選考を行い、更にこの選挙に勝利すれば、国会は自らに近い勢力で占められることになる。現在の韓国与党は、国会過半数に満たない勢力しか有していないから、そうすれば選挙により今よりも遥かに強力な政権基盤が形作られる。

 他方、この選挙で与党が敗れ、野党「自由韓国党」に過半数を奪われる事態になれば、政権は国会での足場を失い、一挙にレイムダック化する。また、選挙戦に至るまでの過程で文在寅が党の統制を失い、自らに敵対する勢力が与党の候補者選びで影響力を振るう状況になれば、仮に与党が選挙にて勝利した場合でも、大統領による与党の統制は不可能になる。

選挙の結果、韓国の国会はどのような構成となるのか ©︎iStock.com

 李明博政権や朴槿恵政権において見られたように、韓国の大統領のレイムダック化に至る過程で最も大きな影響を持つのは、与野党の勢力バランス以上に、大統領と与党の関係である。何故なら、与党の主導権が自らに反する勢力に握られてしまえば、大統領は国会内での支持者をほぼ完全に失い、法案も予算案も自らの思うままに通せない状況になるからである。

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 現状においては文在寅政権の支持率は48.3%(リアルメーター調べ)と極めて高く、与党「共に民主党」の支持率も野党「自由韓国党」を10%近く上回っている。しかし、国会議員選挙までまで3カ月以上の期間が存在し、この選挙まで高支持率を維持できるかが、日韓関係にも大きな影響を与えることになる。

韓国世論の8割以上がトランプ政権の要求を「認めるべきではない」

 だからこそ、この選挙に至るまでの過程で、文在寅はアメリカをはじめとする国際社会の反応以上に、国内世論の動向に敏感にならざるを得ない。そして文在寅政権の2020年の外交を考える上で最も大きな懸念材料は、この国内世論が――日本のみならず――アメリカへの反発をも強めている点である。

 背景にあるのは、トランプ政権が従来の5倍という巨額の在韓米軍負担経費を求めていることである。韓国の有力テレビ局MBCがコリアリサーチに依頼して行った2019年11月の世論調査によれば、在韓米軍負担経費引き上げの要求を「認めるべきではない」と答えた人は83.2%。対して米韓同盟の重要性に鑑みてこれを認めるべきだと答えた人はわずか11.4%にしか過ぎない。この背景にあるのは、在韓米軍に対する韓国人の考え方の変化である。同じ調査では、実に55.2%が「在韓米軍が削減しても構わない」と答えており、「北朝鮮の脅威に備える為に削減は防がなければならない」と答えた人は40.1%しか存在していない。

在韓米軍の烏山空軍基地を訪れたトランプ大統領 ©︎getty

 GSOMIA破棄問題の際には、アメリカの圧力に押されてこれを事実上撤回した文在寅政権が、果たして今後も同様の圧力の下、日本との融和へと進むのか。それとも、強硬な世論に押されて、日本のみならず、その背後に控えるアメリカとの関係をも打ち壊していくのだろうか。そして、アメリカの圧力からも解き放たれた時、文在寅政権の外交政策は世論に押されて更に迷走を深めることになるだろう。

 在韓米軍負担経費をめぐる交渉の期限は迫っており、韓国政府は早々にも大きな決断を迎えることになる。2020年の日韓関係はこの米韓関係の「従属変数」として、更に波乱に満ちたものになりそうだ。

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