文春オンライン

「戦後最悪の日韓関係」2020年はさらに波乱に満ちている理由とは

文在寅政権は、国内世論の動向に敏感にならざるを得ない

2020/01/01
note

アメリカ政府からの圧力が働いたのではいか

 そしてだからこそ、2020年の日韓関係もまた、両国間の関係のみならず、国際社会をもにらみながら展開されることになる。問題はそれが果たして、この問題を良い方向へと導くか否かである。

 例えば、毎日新聞元ソウル支局長の澤田克己氏は『エコノミスト・オンライン』誌上にて、韓国政府が「GSOMIA破棄通告の効力を停止」した背景には、韓国政府のみならず、日本政府に対してもアメリカ政府からの圧力が働いたことがあったのではないか、という見方を示している。即ち、すでに8月の段階でアメリカ政府は、日韓両国にGSOMIAに手を付けない代わりに、日本が「規制強化の対象となった半導体素材3品目のうち1品目の輸出許可を出し」「韓国の輸出管理体制に関する日韓協議を始める」ことを求める提案を内々に行っており、両国は結局、このアメリカが提示した線で妥協を余儀なくされたのではないか、というのである。

2019年12月24日、中国・成都にて行われた日中韓首脳会談 ©︎getty

 この観測がどの程度の的を射ているかはともかく、そもそも、「元徴用工問題での満足できる提案なしには首脳会談には応じない」と主張し、自らがホスト役として迎えたG20においてすら文在寅との会談を拒否してきた日本政府からすれば、仮に日中韓首脳会談に付随するものだとしても、日韓首脳会談に応じたことは従来の立場からの「譲歩」に見える。

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日韓両国がこの国際環境を上手く利用すれば……

 どの程度の圧力があったかは別にせよ、背後に、北朝鮮や中国との対立が深まる状況下で、自らの二つの同盟国がいつまでも続ける争いへのいら立ちがアメリカ側にあることは明らかであり、日韓両国はその顔色をうかがうことなくして、互いへの強硬なカードを切り続けることが難しくなっている。そしてそのことは日韓両国の対立が既にそれ自身「独立変数」として存在するのではなく、アメリカや他国との国際関係の「従属変数」になりつつあることを意味している。

 だが同時にそのことは日韓両国がこの国際環境を上手く利用すれば、深刻化する対立を緩和して、この問題を自らの望む方向での解決に導き得る可能性があることを意味している。だが問題は、果たして両国にそれが可能な国内環境がどの程度あるかである。

 この点において、多くの足枷を抱えているのは、日本政府よりも韓国政府の方だろう。何故なら、日本の安倍政権にとって2020年は、自らが進んで衆議院解散のカードを切りさえしなければ、大きな国政選挙が予定されていない年に当たっており、世論から比較的自由に自らの望む政策を行える状況にある。加えて安倍政権にとっては、念願の東京五輪を無事終えるまでは、国際問題において大きなギャンブルを行うことは避けるべき状況も存在する。与党自民党内において大きな対抗勢力を有さない状況で、早期の政権交代は考えにくく、そのような安倍政権にとって日韓関係で殊更に大きなリスクを負う必要があるとは思えない。