ゴールデンウイーク特大号の今週の文春、ワイド特集には32本の記事が並ぶ。そのなかに、カネがらみの滋味深い記事があるので紹介していく。
《「お金を出してください、って言っても誰も出さない。興味ある人に“信じてもらえないかもしれないし、言わないでおこうかな……”とか、最初の切り口が大切」》
「『とらぬ狸が一番楽しい』つなぎ融資の女王 肉声テープ」で紹介される言葉である。大企業に「つなぎ融資」することで20%以上の配当が出せると謳い、ネズミ講まがいのカネ集めをしたとして、タイで逮捕された自称38歳、実際は62歳の“つなぎ融資の女王”(以下、女王)は、そう語っていた。
業(なりわい)と業(ごう)、その両方の肯定
記事には、タレントのYOUのような声など「七色の声」の持ち主だとある。YOUみたいなウイスパーボイスで「信じてもらえないかもしれないし、言わないでおこうかな」などと62歳にささやかれると、ドン引きしてしまいそうだが、それで口車に乗せてしまうのだから、手だれの女王である。
報道によれば、女王は取り調べで職業を聞かれると、「愛人業です」と答えたという。「落語とは業の肯定である」とは立川談志の言葉であるが、職業を聞かれて「愛人業」と答えるのは、業(なりわい)と業(ごう)、その両方の肯定である。さすが女王。
そもそもなぜ、“つなぎ融資”を始めたのか。記事によると、「普通の主婦に飽き足らなかったのか、ほどなく離婚。スナック経営や焼却炉の製造販売業などを始め」たそうな。離婚してスナック経営を始めるのは、まあよく聞く話。しかし女王はそれにとどまらず、焼却炉の製造販売業まで始めてしまう。これにも、さすがとおもってしまう。
そんな女王は2005年に破産。そこからつなぎ融資名目でカネ集めを始める。集めたカネで焼却炉の製造販売事業をふたたび始めたかというとそうでもなく、運用するつもりもなく、豪奢な暮らしに費やされる。
「俺にもまだ輝ける世界がある」。水谷竹秀『日本を捨てた男たち』に出てくる言葉である。誰にも相手にされることなく居場所もない男が、ひとたびフィリピンクラブの敷居をまたぐと、女性たちの歓待で男としての自尊心を回復し、こう錯覚してしまうのだ。で、調子に乗ってフィリピンに渡り、無一文になってしまう。
女王も、違法なカネ集めで日本に居づらくなったからか、まだ輝ける世界を求めて、フィリピン、タイへと渡り、現地でもカネを集めては、地元のホストに家を買い与えるなど放蕩する。女王がくだんの男たちと違うのは、食い物にされるのではなく、するほうだということだ。はやくも大竹しのぶや寺島しのぶが演じる姿が目に浮かんでくる、そんな女王である。
無造作な社長の強盗被害
「福岡3億8千万円強盗 被害者はテレビでお馴染み金満社長」、これは4月20日、白昼堂々と多額の現金が奪われた事件の、被害者の人となりを紹介する記事。なんでも……
《「傘立てには複数の日本刀が入れてあり、稀少な象牙が無造作に放置されているなど、一部の取引先の間でも管理体制を危惧する声はあった」》
コアマガジンのコンビニ漫画に出てきそうな事務所である。そんな無造作な社長だけあって、「女性社員一人に数キロの地金をキャリーバッグに入れて繁華街を運ばせたり」することもあるという。
ひと頃、すき家は「すき家強盗」なる語彙がまるで普通名詞であるかのように広まるほどの強盗被害にあう。その主な原因は店舗が防犯に無自覚であったためだ。きちんと防犯するには、被害額を上回る数億のカネがかかり、それならば防犯しないほうがいいと放置していたわけだ。
御徒町の帝王も警備なんぞにカネをかけるより……だったのか。保険もあろうし、いざとなれば、つなぎ融資もあるのだから。