先日、東京堂書店神保町店をご紹介したが、本の街神保町には、ユニークな本屋さんが多い。中でもその品揃えのユニークさで群を抜くのが、農文協・農業書センターだ。農に軸足を置いた専門書店ではあるが、門外漢である自分から見ても、本の世界の多様さ、奥深さを感じる、知的好奇心を刺激する楽しい売り場、専門家だけの場所にしておくのはもったいない。

 本屋好きの聖地、神保町のメインストリート、東京堂書店のあるすずらん通りは、白山通りを渡るとさくら通りと名前を変える。白山通りとさくら通りの角、コンビニ・サンドラッグの3階に、日本で唯一の農業書専門店である農文協・農業書センターはある。2年前にこの場所に移転する前は、大手町のJA(全国農業協同組合中央会)ビルの中にあり、農家や農業団体の専門家御用達の専門書店だったが、神保町駅歩0分の好立地で徐々に一般のお客様も増えてきたと店長の荒井操さんは言う。

農文協・農業書センター。神保町駅A6出口すぐ、CVS(サンドラッグ)の3階。
内階段を上がる。
少し入りにくい入り口。

 ビル脇の入り口を入ってエレベーターか、コンビニの内階段から3階に上がる構造で、道路にはノボリや看板を出せないこともあって、入り口はやや入りにくい。だが、「農業書の専門店」という取っつきにくさの懸念も、階段を上がってすぐの、話題書・人気書のコーナーを見るとすぐに解消される。「農」を軸足に専門家向けだけではない、幅広い話題をカバーしている。土壌微生物や都市農業という専門分野の本とともに、TPPや原発といった農業にかかわりの深いテーマの本、最近来日して話題になった世界一貧しい大統領の本、朝の連続ドラマのモデルとなった「暮しの手帖」創業者の本、食文化を伝えていく和食やスイーツのレシピなど、専門性と話題性、実用性と知的好奇心充足のバランスがよい。

ADVERTISEMENT

 農文協(農山漁村文化協会)は、農業書や農山漁村の生活に関する本を出版する出版社でもある。その農文協が開いた書店ならでは、自費出版や農業団体発行の一般の書店では流通していない書籍や雑誌が充実しており、全国からこんな本はないかという相談も多い。

話題書のコーナー、「農」を軸足に幅広い。
農文協発行の地域の食文化の「聞き書」シリーズ。

【次ページ】来店のきっかけ作り