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来店のきっかけ作り

 入りにくさ、取っつきにくさを解消するために、様々なイベントにも取り組んでいる。階段のスペースを利用したイラストや写真の展示会、農村や生物多様性をテーマにしたバンドの店内ライブ、著者を招いてのトークショウなどを通じて、新しいお客様が来店するきっかけを作っている。

イベントの掲示。トークショウからライブまで。

 昨年、隣接する岩波ホールで養蜂をテーマにした映画「夏をゆく人々」が公開されたタイミングでは、店舗ベランダで飼育しているミツバチの採蜜体験会と、養蜂関連書籍フェアを開催していた。養蜂の本は、フェア棚だけでなく常設の棚にも充実している。東京でも、ビルの屋上庭園や街路樹、皇居、日比谷公園など、緑が多く、いい蜜が採れるとのこと。銀座のビルの屋上で蜂を飼う銀座ミツバチプロジェクトや、都内各地で養蜂をおこなう東京ミツバチ研究会、八重洲ブックセンター本店の屋上など、都心部でも養蜂が広がっており、神保町の蜂と八重洲の蜂がどこかの花で出会っているかと思うと、ちょっと楽しい。

 ベランダの巣箱で採れたハチミツは、取材時にはなかったが(2015年の神保町ブックフェスティバルでは限定100個販売)、都内で採れたハチミツを販売していた。この他、著書やイベントがきっかけで、取り扱うことになった農産加工品や多肉植物、自然農法によるマメ(タネとして販売)なども扱っている。ただし、最近増加傾向にあるいわゆる複合型書店と比べると、非書籍比率は必ずしも高くなく、「農」にまつわる情報発信の一環で、意志を持って限定した物を置いているようだ。

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ミツバチの本。本格的養蜂研究書から銀座のミツバチまで。
 

 取材時、入って正面のいい場所で展開していたのは、猟師の本だ。『遠野物語』にもなぞらえられる名著、山で出会った怪異についての聞き書き『山怪 山人が語る不思議な話』や、猟師からの綿密な取材に基づく『猟師が教える シカ・イノシシ利用大全』などの著者、田中康弘さんを招いてのトークショウには、現役の猟師も参加して、50名ものお客様が集まって盛況だったとのこと。フェアの選書も、猟師専門誌、猟師の文化誌、猟師の経験をつづった人気マンガ、ジビエ料理のレシピから、農家にとって切実な鳥獣害対策まで、幅広い。

話題書『山怪』から、鳥獣害対策まで、幅広い猟師本。

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