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オバマの「手柄」はすべて否定したい

 考えられる第1の理由は、気候変動対策のパリ協定と同様に、オバマ前政権の「手柄」はすべて否定したいというトランプ氏の個人的衝動だろう。

 第2は、中東でイランの核開発を最も警戒し、核合意に反対するイスラエルの意向だ。米政権内でそれを代弁しているのが、イスラエルのネタニヤフ首相ら右派と強い紐帯を持つジャレッド・クシュナー大統領顧問(トランプ氏の娘婿)である。国連安保理決議を無視し、エルサレムをイスラエルの首都として承認(2017年12月)するなど、従来のパレスチナ和平路線を覆す娘婿の存在が対イラン政策にも影響しているのは間違いない。

イスラエルのネタニヤフ首相とジャレッド・クシュナー米大統領顧問 ©AFLO

 第3は、次期大統領選を意識した国内の宗教右派(プロテスタントの原理主義者)の取り込みだ。第2とも重なるが、米国の人口の2割弱を占めるこの種の人びとは聖書に記されたハルマゲドン(世界最終戦争)を希求する理由から、イスラエル右派を支援し、イスラム教徒との対立を煽ってきた。当然、彼らは反イランの急先鋒でもある。

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トランプ政権には外交や国防のプロがいない

 一方で、トランプ政権は「世界の警察官」役の放棄と、米軍の中東からの撤退を掲げてきた。昨秋もトルコのシリア侵攻に際し、対「イスラム国」(IS)の戦闘で盟友だったクルド人武装勢力をいとも簡単に切り捨てた。歴代の米政権では考えられない判断だ。こうした撤退の動きに危機感を抱いてきたのが、いわばリストラ対象となる中東・アフガニスタンなどを担当する米中央軍である。中央軍のケネス・マッケンジー司令官は再三、イランの脅威を喧伝してきた。目先のリストラ阻止がその狙いである。

 個人的な好みや目先の利害に傾き、政権が政策矛盾を起こしている。本来なら、それを修正する外交や国防のプロがいなくてはならない。だが、政権内には度重なる首切りもあって、すでに経験知を持つプロがいない。そこがトランプ政権の最大の危うさだ。

【Twitter】「All is well!!(万事うまくいっている!!)」と書き込まれた、トランプ大統領のツイート


 それを実感したのは昨年6月、イランの革命防衛隊が米軍のドローンを撃墜した際の米政権内の反応だった。「ソレイマーニーのせいだ」という声が飛び交った。しかし、ソレイマーニー氏の担当はあくまで国外での工作で、自国の防空とは全く無関係だ。

 あるいはマイク・ポンペオ国務長官の「イランとアルカーイダは蜜月」という公聴会での発言も同列だ。なぜなら、スンナ派のイスラム主義者の中でも、アルカーイダ系の潮流はシーア派信徒(イラン国民のほとんどはシーア派だ)を「ラーフィディーン(異端者たち)」と見なし、敵視もしくは毛嫌いしているからだ。

 そうした無知の怖さがソレイマーニー爆殺でも露わになった。ソレイマーニー氏が不世出の策士であり、イランの対外工作の頭脳というなら、まだ分からないでもない。しかし、彼はそうした人物ではない。