対決! レンタル彼氏(1)より続く
「ダ・ヴィンチ」BOOK OF THE YEAR 2015 1位(エッセイ・ノンフィクション部門)!
『時をかけるゆとり』に続く朝井リョウエッセイ集、第2弾の完成を記念して、発売前に本書より一部を先読み公開します。別人格になりきりたい。そんな気持ちから、レンタル業者に興味をもった朝井さん。謎の欲望に突き動かされる二人の驚きの体験談、その2です。
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対決! レンタル彼氏(2)
私はここで、レンタルされる側として働きたい。もう一度、兼業作家になりたい。
衝動に突き動かされるようにして、どうしたらそこで働けるのかを調べたが、お察しの通り、世間に顔出しをして仕事をしているような人間は門前払いという感じであった。そりゃそうだ。騙した相手にどこかで見つかる可能性がある人間なんて、危なっかしくて雇えるわけがない。作家デビューする際、顔出しをするかどうか一応尋ねられたのだが、あのときなぜ「いずれレンタル業界でナンバーワン目指す予定なので、顔出しNGでお願いします」と言わなかったのだろうか。覚悟が足りなかったとしか思えない。
……というようなことを、私は、仕事関係者である当時二十九歳のUさん(女性)にたらたらと話していた。するとUさんは、思わぬことを口にした。
「私、協力したいです」
えっ?
「私と朝井さんが姉弟ということにして、私が彼氏をレンタルするんです。その三人で食事に行きましょう」
ん〜?(物わかりの悪い幼子をあやすような顔で)
「地元にいる両親が、私がまだ独身であることにイライラしていて……東京にいる弟に彼氏を見せて、両親を安心させたいっていう設定です。これなら朝井さんは私の弟になりきるという快感を得られます」
快感を得られる未来を断言された私は少々戸惑ったが、Uさんのやる気は留まるところをしらなかった。それに、確かにそのやり方ならば、自分のなりきり能力を思う存分試すことができる。しかし、どうしてこの人はここまで協力的なのだろう――私の疑念を察したのか、Uさんは続けた。
「私、これをやれば、二十代をきちんと終えられるような気がするんです」
どうしてだろうか。疑念は深まるばかりだったが、「二十代最後にヤンチャしたいんです」等と言葉を重ねるほどUさんの動機はどんどん希薄になっていったので、私は慌てて頷いた。Uさんを逃したら、こんな試みに真面目に協力してくれる大人なんて一生見つからないかもしれない。
これで、両親から早く結婚しろとうるさく言われているUさん、Uさんが業者を通してレンタルする彼氏、Uさんの弟になりきりレンタル彼氏に会う私――地獄の騙し合い会食の開催が決定したのである。
「じゃあ、日程を決めましょう」
Uさんは早速日程を調整し業者に連絡を取り始めていた。自分たちのよくわからない欲望を満たすためだけにあくまで本気で人助けをするつもりの他人を巻き込むことには一抹の罪悪感を抱いたが、「でも、レンタル業界にまつわる小説を書くわけだし!! 取材取材!!!!」と脳内麻薬を分泌しまくることで、私は自らの思考回路に頑丈な蓋をした。