売り場を通じたコミュニケーション
コミックスもあゆみBOOKSチェーンの売りだ。山田店長が、「自分も含めて見習わなければ」というほど、熱心に情報収集をおこない、他の書店とも積極的に情報交換をしているという。書店員は忙しい。発注やシュリンク(立ち読み・汚損防止のビニールカバー)、陳列、返品といった日常業務の合間を縫って、新作に目を通し、未知の作品に対してアンテナを立て続ける、売場で発信し続けるのは、ほんとうに頭が下がる。
文庫売り場も知的好奇心を刺激する棚になっている。地元文京区、小石川や茗荷谷、本郷界隈を舞台にした作品を集めた小石川文庫には、森鴎外、寺田寅彦、幸田露伴といった文豪の名前が並ぶ。文庫を担当する有地さんは、「又吉効果ですかね」と笑うが、普通の棚の中でも、太宰治も、谷崎潤一郎も三島由紀夫も、新刊の文庫本と並んで陳列されている。新刊は黙っていてもある程度売れていくので、むしろ既刊本の中から、手を掛ければ売れるものを売り伸ばすようにしている。
フェアもひと味違う。キリスト教書の文庫フェアでは、講談社文芸文庫、平凡社ライブラリー、ちくま学芸文庫といった重量級の作品が並ぶ。値段もそこそこ高いものも多いが、「こんな本が文庫で読めるんだ」という衝撃を受けて、手に入るものを揃えてみたとのこと。住宅街/オフィス街/学生街だから、中高年だから、下町だから、それぞれマーケティング的な言葉を当てはめて客層を規定することはたやすい。そうした発想では出てこなかったであろうフェアについての、有地さんの「売れてますね、遠慮しちゃダメなんだとわかりました」という言葉が印象に残った。
あゆみBOOKSチェーンでは、文庫担当者同士も積極的に情報交換をしている。文庫担当者の会議で全店推薦が決まった本を積んでいた。『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(文春文庫)。聞こえない人の聞こえる子ども、コーダ“CODA”(Children Of Deaf Adults)が主人公のミステリーだ。聞こえる人(聴者)と聞こえない人(聾者)、ふたつの文化を繋ぐ者としてのコーダという存在に興味を引かれた有地さんが店頭で推しはじめ、店のツイッターを通じて著者の丸山正樹さんも応援してくれたことをきっかけに売り伸ばし、あゆみBOOKSチェーンでの全店推しタイトルに決まったとのこと。