6月3日より全国公開される映画『武曲 MUKOKU』は、剣道に憑かれた2人の男の物語だ。綾野剛さんが演じる、幼少より父から「殺すつもりで立合う」ことを叩き込まれた矢田部研吾は、その呪いのような訓(おし)えに剣の道を見失い、残滓のような日々を送る剣道五段。もう1人はラップの歌詞(リリック)作りに夢中な高校生の羽田融(はだとおる)。あることをきっかけに剣に魅せられていくが剣道は未経験。この融を村上虹郎さんが演じる。
「僕、学生時代に剣道やっていたんです。だから身体にカタが入っているので上達してからの動きはリアルですが、初心者の動きや構えはかえって難しかったです」
原作は段位四段の藤沢周氏の同名小説だが、単なる剣道と青春の物語ではない。
「原作も読みましたが、禅的な世界に触れながら精神面でも成長することで剣の道を究めていく過程が描かれています。剣道の面白さは若ければ強いわけではないところ。体力勝負かと思いますが、そうじゃないんです。芝居も同じで、年齢を重ねるほど深みがでて、死ぬまで続けることができる。剣道師範・光邑雪峯(みつむらせっぽう)役の柄本明さんは『この作品はスター・ウォーズだ』っておっしゃってました(笑)」
映画では融と研吾の出会い、そして剣を交えるところに焦点を当てている。手にするのは竹刀、そして黒檀の木剣。刃も銃もない。それなのに、スクリーンからは血と死の臭いが漂い続ける。
「融は研吾と出会い、惹かれてしまうんです。ヒロインみたいに。それ以上近づいたら殺されるかもしれないのに野性的な衝動を抑えられない。剣道の初心者が有段者に挑んだって本当は敵うわけないんです。でも融は研吾と初めて剣を交えたときに感じたヒリヒリしたものが忘れられず、“死なんて関係ねェ”って後先考えず防具ではなく殺意をまとって勝負に行く。その場面での綾野さんは、もうRPGのボスキャラ、獣そのものでした」
終盤、凄まじい嵐の中でまみえる決闘シーンは相手を討ち果たさんと命をぶつけ合う。
「その決闘を経て光邑師範と向き合う場面が好きです。融は何かに反発してるけど不良ではない。真っ直ぐで屈託がなくて、強い者に対して子供のような暴言も吐かずに立ち向かっていく。そしてちゃんと学んで成長するんです。その気持ちは凄い。だから僕は融が好きだし、この役を演じられて幸せでした」
熊切和嘉監督作品出演はデビュー時より熱望していた。
「今回ドロドロの作品だったから次は恋の話をやりたいですと伝えたら、『次のもドロドロだよ』って。でも研吾に出会ってしまった融が想いをぶつけるって、恋愛みたいなものなんですけどね(笑)」
むらかみにじろう/1997年生まれ。2014年、カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品『2つ目の窓』で主演デビュー。16年ドラマ『仰げば尊し』、映画『ディストラクション・ベイビーズ』等。今後『二度めの夏、二度と会えない君』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『Amy said』等の映画出演を控えている。
『武曲 MUKOKU』
6月3日(土)全国公開
http://mukoku.com/