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韓国の若者たちが「ヘル朝鮮」と嘆く激烈すぎる格差社会はなぜ生まれたのか

韓国を支配する“空気”の研究――格差社会編

2020/01/24
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学院通いで夜10時くらいまで自宅に帰ってこられない小学生

 韓国では、みんな幼児のころから学院に通い、小学生ともなれば夜10時くらいまで自宅に帰ってこない子などざらにいる。ちょっと有名な学院になると、学校の授業の2~3年先の内容を教えていると言われる。だから、学校の授業時間中、夕刻から深夜の勉強に疲れ果てて寝入ってしまう児童生徒もいるという。中3や高3の子どもを持つ親は「今年は長期休暇はなし。子どもに申し訳ないから。休んでも、ひたすら子どもの邪魔にならないようにして過ごすよ」とぼやく。もっとも、そんな親はダメな方で、大多数の親は子どもの状態に常に気を配り、夜食を用意することはもちろん、「子どもが寝るまで、自分も起きている」という人も多いと聞く。

 児童生徒の勉強漬けを懸念する声はいつも上がるが、自分の子どもを持つ親は「うちの子だけが振り落とされたらどうしよう」と考えるから、どうしようもできない。

 私がソウルに住んでいた頃、話題になった問題の1つに英語教育がある。

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 韓国教育部は2018年1月16日、廃止を目指した公立幼稚園での英語課外授業の扱いを当面保留すると発表した。背景には、英語教育の過熱があった。教育部は行きすぎに待ったをかけようとしたが、保護者から「金持ちばかりが有利になる」と猛反発を食らって方針を変更した。

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裕福な家庭の子は毎月、5万~10万円を出して英語の個人レッスン

 韓国の街を歩いていて感じたのは、英語熱の高さだ。街の至るところに、「英語学院」の看板が立ち並び、街路灯にはよく「英語教えます」といった手製の売り込みチラシが貼ってある。韓国では、2歳ごろから英語教育を始める家庭もあるという。確かに、若い人たちを中心に英語は非常にうまい。昔、知り合いから「日本人の英語は、植民地パルム(発音)と呼ばれている」と聞かされたこともある。文法中心の教育を受けているから、発音がたどたどしいという意味だった。

 ただ、我も我もと英語を習おうとすると、どうしてもそこには所得格差の影が忍び寄る。知り合いの大学生に聞いてみると、中学生ぐらいで裕福な家庭の子は毎月、5万~10万円を出してもらって英語の個人レッスンを受ける。まあまあ余裕のある家庭は2万~3万円ぐらいで英語の塾に行く。それもままならない家庭は、1万円程度で英語の添削教育を受けるという。

 だから、こうした格差を埋めたいという父母の要望を受け、公立幼稚園でも毎日約1~2時間、正規の授業とは別に外部の講師を招く課外授業を行っている。

 教育部は幼少時の英語教育の過熱を心配し、公立幼稚園での課外授業の廃止をもくろんだが、逆に保護者の猛反発を食らう結果を招いた。大統領府ホームページの「国民請願コーナー」には「教育の自由もない共産国家だ」「公教育だけ制限してどうする」といった非難の書き込みが相次いだ。