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韓国の若者たちが「ヘル朝鮮」と嘆く激烈すぎる格差社会はなぜ生まれたのか

韓国を支配する“空気”の研究――格差社会編

2020/01/24
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「ヘル(Hell=地獄)朝鮮」韓国社会に絶望する若者たち

 大学生たちに言わせると、就職活動の現場では、企業が求めるTOEICの最低スコアが700点なのだという。知人の大学生は「良い会社に入りたかったら900点ぐらい取らなければだめです」と言う。

 韓国は「ヘル(Hell=地獄)朝鮮」とか「金のさじ、泥のさじ(親が金持ちか、そうでないかで子どもの将来に大きな影響を与えるという意味)」などと言われるように、激烈な競争社会、格差社会。若い人たちは韓国社会に絶望し、海外移住や外資系会社への就職を夢見る。韓国の会社も「他の企業に優秀な人材を取られてはならない」と考え、自分の会社がいかに国際的に開かれた会社なのかをアピールする。だから、必要もないのに、入社時に高い英語力を求めてしまう傾向があるという。とても素晴らしい英語力を苦しんだ末に身につけても、就職先の会社で英語を使う機会に恵まれない人も多い。

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SKYに入ったら入ったで、ひたすら子どもに尽くす父母

 さて、高麗大OBの知人の場合、高校生時代はたまたま学院通いが規制されていたため、生徒たちは朝7時に登校、授業を間にはさみ、深夜23時までひたすら教室内で自由学習に励んだという。どの子もみな、弁当を3つ持ってきていた。平均の睡眠時間は4時間あれば良い方だった。知人は「親も大変でしたよ。弁当つくったり、深夜に学校に子どもを迎えに行ったりで、ほとんど休めなかったんじゃないかな」と言う。

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 SKYに入ったら入ったで、父母はひたすら子どもに尽くす。知人の場合、高麗大そばの立派なアパート(マンション)に住む学生を何人も見た。高麗大は地方出身者が多いため、ハスク(下宿)生も多いが、「苦労しないで、ひたすら勉強に励みなさい」と、子どもに尽くす親も多い。大学そばのアパートは1990年代当時、チョンセと呼ばれる、家賃を払う代わりに最初に一定額の保証金を納めて、家主がそれを運用して利ざやを稼ぎ、契約終了時に全額を返還するというシステムを取っているところが多かった。知人は「大体、その金額が安くても2億ウォンでしたね。地方の親のアパートのチョンセよりも高いところもあったようですよ」と語る。

「親にしてみれば、それで頑張って、良い職に就いてくれたら、もう万々歳なわけですよ。投資感覚ですね」

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 朝日新聞前ソウル支局長として韓国社会を取材してきた牧野愛博氏による新著『韓国を支配する「空気」の研究』(文春新書)が好評発売中です。対日関係から若者の格差、女性の社会進出など、様々な角度から韓国の「空気」を読み解いています。

韓国の若者たちが「ヘル朝鮮」と嘆く激烈すぎる格差社会はなぜ生まれたのか

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