たくさんの人の行き交うターミナル駅の片隅に、小さく佇むスープのお店。忙しい仕事の合間に、通勤の合間に、ほっと一息スープで落ち着く。そんな空間を提供してくれているのが、首都圏の駅を中心に約60店舗を展開する「Soup Stock Tokyo」(以下スープストック)。

 かつて、エキナカ飲食店と言えば、オジサンたちが蕎麦を啜る立ち食いそば店くらいしかなかったが、スープストックの登場はそんなエキナカのイメージを大きく変えた。駅を中心に展開してきたスープストックの狙いは何だったのか。そしてこれからの“エキナカビジネス”のアイデアとは。

 スープストック等を展開する株式会社スマイルズの遠山正道社長に、2回にわたってインタビューを行った。1回目は、スープストックと駅の出会いについて……。

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その頃は、正直に言えば駅をやや毛嫌いしていた(笑)

©榎本麻美/文藝春秋

――そもそもの話で恐縮ですが、どのようなきっかけで駅への出店をはじめられたのでしょうか?

遠山 スープストックの1号店をヴィーナスフォートに出したのが1999年なんですが、その頃は駅に出店しようという考えはあまり持っていませんでした。いや、もっと正直に言えば駅をやや毛嫌いしていたという感じもあったんです(笑)。私たちはスープストックをファーストフードのアンチテーゼみたいな存在としてスタートさせたので、なんとなく構えているところもあって。

――移動の合間に気軽にさっと食べて……というのではなく、と。

遠山 どんなお客さんにどんなシーンで利用していただきたいかということは、かなり考えていたので、1号店のイメージも本当は恵比寿公園あたりで緑の借景があって、風が抜けるようなお店(笑)。でも、1号店でうまくスタートを切らないと先がないですから、ヴィーナスフォートに出すことにした。本当は駅や商業施設のようなところに出店するイメージは持っていなかったけれど、失敗したくないから。ところが、ヴィーナスフォートの1号店がすごくうまくいったんです。それで我々の考え方も変わる部分がありまして。

 それで門戸がパカッと開けたんですよ。本来、お客さんを選ぶなんてことはありえないじゃないですか。だからこそ、来る人は拒まず。その上でやることをやっていれば我々に共感してくれる人は必ずいる。それでいいんじゃないかなと、一皮むけた感じがしました。

――そこで、人の集まる駅に出店を考えられたのですか。

遠山 いや、駅に行くのはもう少し先なんです。1号店を出してわりとすぐにJR東日本さんから駅に出店しないかというお声がけを頂いたのですが、そのときはお断りした。門戸が開けたと言っても、まだちょっととんがっていたんですね。JRの方々がずらりと並んでいる会議室でこちらは店からユニフォームのままで会いにうかがって。そこで「私自身が駅で食べるっていう生活様式じゃないので、ちょっと駅に出すというのはピンときません」みたいなことを平気で言っていた(笑)。

Soup Stock Tokyo アトレ恵比寿店 ©スマイルズ

恵比寿で気づいた「小さいことはいいことだ」

――当時はエキナカビジネスも黎明期ですから、駅に出店といってもイメージがわかないですよね。

遠山 そうなんですよね。立ち食いそばとか、よく言っても駅ビルのデパートの食堂くらい。だから興味が無いといってお断りしました。今からすればゾッとします(笑)。でも、ありがたいことに4店舗目か5店舗目を出した頃に、もう一度JRの方が話を持ってきてくれたんです。上野駅の改札外に、半分フランチャイズのようなスタイルで出さないか、と。

――そこでいよいよエキナカへの進出ですか。

遠山 率直な感想は「え?上野?」でした(笑)。ただ、1号店を出してからそのお話を頂くまでの間にいろいろな経験をしてきたなかで、駅の小さなスペースに出店するほうがいいのではないかという思いも持つようになって。

――大きな店よりも小さな店で、と。

遠山 3店舗目で、溜池に3階建ての路面店を出したんです。賃料が72万円で、大きい割に安いと思って。ところがこれがうまくいかない。1階と2階がスープストックで、3階は「100本のスプーン」というレストランにしたんですが、まあ苦労しました。そもそも店の前の通行がほとんどないんです。アークヒルズとかに行く人も、みんな地下鉄から地下道を通って行っちゃうので、わざわざ外に出て店の前を通ってくれるなんてことがないんです。なので私も赤坂の道路でチラシを配ったり、毎日のようにサクラみたいに店の窓際でご飯を食べたりしたんだけど、ダメだった。で、ちょうど同じ頃に恵比寿三越で4坪くらいのテイクアウトだけの小さな店を出したんですけど、それが逆に好調で溜池の店の倍以上の売上を出した。これで気がついたんです。「小さいことはいいことだ」と。