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Soup Stock Tokyoが「エキナカ」で成功した理由

スマイルズ 遠山正道社長インタビュー #1

2017/06/26
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「駅ってすごい」と思った上野駅での経験

©榎本麻美/文藝春秋

――溜池での失敗が駅への出店のひとつのきっかけになったということですね。

遠山 ウチはテイクアウトが多いように見えるけど実は2割くらいで、イートインが主体なんです。だから席がないといけない。そのギリギリのラインがだいたい15坪。ちょうど上野駅のお話とあったんですよね。それに加えて、JRの担当の方が熱心だったのと、単なる賃貸借契約ではなくてJRさんと一緒に事業をやるようなスタイルだということで興味が湧いた。当時は三菱商事が株主だったので、三菱商事×JRっていい組み合わせだな、とも思って(笑)。そこではじめての駅のスープストックということで、上野に店を出すことになったんです。

――そこから“駅の中のスープストック”の快進撃がはじまるわけですね。上野駅の店舗の成果はいかがでしたか?

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遠山 おかげさまでなかなかよかったですね。面白かったのは地域柄なのか、おじいちゃんおばあちゃんがひとりでひょこっと入ってくるんですよ。港区に出しているような店は全然そんなことはないんだけど、上野は下町だからなのか、まさにありとあらゆる人が平気で一人で来てくれる。だからよりいっそう門戸が広がった感じもしましたし、駅ってすごいと改めて思いました。そもそも店前通行量が段違いですからね。溜池の路面店のトラウマも抱えていたから、もう俄然、駅に出すぞ!と。

――最初は抵抗を持っていたのに、最初の出店をきっかけに一気に駅を中心に展開するようになっていった。

©スマイルズ

遠山 そうなんですよね。我々は別にターゲットを絞っているわけではなくて、0歳から100歳までということでやっているんです。でも、その中でもどちらかというとスピード感のあるキャリアウーマンみたいな都会の中で忙しく働いている人たちが、ウチの店にきてホッと一息ついてほしいというイメージは持っていた。そこに駅という場所はすごくフィットする感じがあるんです。それからも路面店や大きな店もやるにはやったんですが、例えば六本木では入り口に外国人がすごいたむろするようになっちゃったりとか、名古屋のオフィスビルの地下に大きな店を出して失敗したりとか、成功した体験がほとんどない(笑)。だからとにかく駅ばかりになりました。今のウチがあるのは、駅さまさまですね。いつもお世話になっています。

全商品一律の価格設定をする理由

――もちろん、駅ならではの難しさもあると思います。

遠山 何が大変だって、家賃も工事費も高くつくんです。工事の業者さんも決まっていたり、作業ができる時間帯が限られていたり、配管を回すまで数百メートルも距離があったり……。賃料にしても、エキナカなどの商業施設は歩率が主流。坪数が大きくても小さくても歩率は変わらないから、例えば歩率15%で1000万円の売上だと150万円の賃料を払う。15坪の店舗だと坪単価10万円ですから、結果的にすごく高くなるんです。それは駅への出店の難しさと言えば難しさですね。

――今では賃料の歩率というのは駅はもちろんどの商業施設でも当たり前のシステムですよね。

遠山 すっかりそうなりましたね。私の認識では、アークヒルズができたときに森ビルの頭山(秀徳)常務が持ち込んだもの。資金力がなくても美味しいものを作れる人に入ってもらいたということで導入したのだと思います。この頭山常務には大変お世話になっていて、スープストックも1号店を出す時に試食をしていただきました。

――大変グルメな方なんですか。

遠山 その頃は年間300食フレンチを食べてる、みたいな方でしたから(笑)。でもとてもとても厳しいかたで。最初食べて頂いてダメ出しを貰って、2度目の試食の時に頭山さんが30分遅れていらっしゃいました。我々も、森ビルの社員の方々もガチガチに緊張している(笑)。そして、頭山常務がひとくちポトフをすすって、「うまい」と。それでみんなの緊張が一気にとけ、出店へと話が進みました。

――スープストックはエキナカ飲食店の中では少し価格帯が高い印象もありますが、その点の不安はあったのでしょうか。

遠山 価格は最初からほとんど変えていないんですよね。ヴィーナスフォートに1号店を出したときには商品ごとに価格を変えていましたが、それも統一して今は全商品一律。だから儲かる商品も儲からない商品もあるんですけど(笑)、値段の上下でお客さまを悩ませないようにと考えたんです。お客さまが悩まなければ注文から提供まで、店内にスピード感も出る。駅のような場所で利用される方の状況を思うと、スピーディーに提供することはひとつのポイントかなと思っています。

©榎本麻美/文藝春秋