「駅の小さなスペースに店を出したおかげで今のスープストックがある」と語る株式会社スマイルズの遠山正道社長。この成功から生まれた「小さいことはいいことだ」という哲学は、エキナカから飛び出して新しい業態にも積極的に応用されている。今あらためて思う「駅」という商業空間の新しい使い方とは?

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駅から家庭へ 「冷凍スープ」の試み

©榎本麻美/文藝春秋

――スープストックとしては、最近では冷凍スープも注目されています。「駅」を足がかりに今では駅から飛び出して幅広い展開をされている印象です。

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遠山 百貨店の地下で冷凍スープだけを売っている店を出しているんですけど、冷凍食品だけの店って百貨店では初めてじゃないですかね。通販もやっていてこちらも伸びています。

――場所を選ばずに利用できるので、冷凍スープはありがたいですよね。

遠山 先日、サシイレストの人にあったんです。差し入れ専門家の人に。そうしたら、差し入れのベスト5にスープストックの冷凍スープが入っているというんです。その方は宝塚ファンだそうで、公演が終わると楽屋に挨拶に行くと。その時にスターの方に差し入れの冷凍スープを渡す。冷凍スープなら4~5時間は持つから、家に持って帰って疲れたなあって時に「これ飲んで寝ようか」と重宝されるそうなんです。

――色合いもカラフルだし、奥さんへのお土産にするのもよさそうです。

遠山 私が言うのも変ですが、スープ嫌いの人って滅多にいないじゃないですか(笑)。それに冷凍スープは重量感があるからありがたみもある。好きなものを選んでもらえるし。そういう意味では、スープストックはどんどん家庭の中に入っていくという新しい展開につながっているのかもしれないです。

宝塚スターにも重宝されている「冷凍スープ」 ©スマイルズ

最近興味があるのは「ひとりビジネス」

――現在は駅への出店はそれほど積極的に進めていないようですが、逆に“駅”という環境を使った新しいビジネスのアイデアなどはあるのでしょうか。

遠山 そうですね、やはり「小さいことはいいことだ」ということが根幹にあるんです。駅の小さなスペースにハマったことでスープストックは成長できた。だから、駅の中の小分けされたスペースって他にもいろいろ使えるんじゃないかと思うことはあります。たとえば最近興味があるのは「ひとりビジネス」。単位が小さいと、それに伴って物理的にリスクも小さくなる。背負うリスクが小さいと、その分思い切りがよくなるので企画も際立ってくる。個人個人の情熱やセンスがそのまま出てきて、その人の人生そのものが出てくるというのかな。とても魅力的な企画が生まれやすいんです。

――実際、スマイルズではこうした「ひとりビジネス」の取り組みをされてきていますね。

遠山 そうですね、社内ベンチャーで独立した者もいたり、魅力的な個人に出資もしています。例えば「森岡書店」。5坪で1冊の本だけを売っている書店です。それから、瀬戸内海の豊島にはスマイルズで働いていた夫婦がやっている「檸檬ホテル」があります。これは築90年の古民家を再利用したもので、1日1組2~6名が和室1室で雑魚寝して、300坪の檸檬畑を自由に使うというもの。他にも、西早稲田のジンギスカン屋「羊のロッヂ」とか、社内ベンチャー第1号の新宿のバー「toilet」とか。どれも小さい単位でやっている企画で、だからこそおもしろいものができているし、どれもうまくいっているんです。

築90年の古民家を再利用した「檸檬ホテル」 ©スマイルズ