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たくさんの人が行き交う駅だからこそ、できることは何か?

――SNSの時代というのもひとりビジネスにマッチしていそうですね。

遠山 「森岡書店」にしても、SNSひとつで遠くまで知られるわけです。イギリスのガーディアン紙が取材に来たり、フランスのカルフールの役員がインタビューに来たり、中国のSNSで話題になっていたりとか。これがもし50坪もある大きい本屋だったらそうはならない。普通の本屋になっちゃいますから。小さくて際立っているからこそ、遠くまで届く。そこにひとりビジネスの魅力があるんです。

©榎本麻美/文藝春秋

――そして、その「ひとりビジネス」は駅にふさわしい、と。

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遠山 ちょっと無理矢理の想像になりますけど、駅に一坪くらいの小さなユニットがダーッと並んでいて、その中でいろいろな人がいろいろなことをやっているとかね(笑)。例えば、毎週月・火・水は漫画家や小説家がそこで原稿を書いていて、オフ会みたいにファンの人が見に来るとか。ネットを通じてオフ会の会員になっている人だけが中に入れる。駅って不特定多数の人が行き交う場所ですよね。そこに閉じた小さなブースがあって何かをやっている。ギリギリ開いてギリギリ閉じているような空間は、駅にふさわしいんじゃないかと思います。

――誰でもひとりビジネスを始められる時代に、駅という場所が存在感を持ち始めるのでしょうか。

遠山 たくさんの人が行き交う場所だからこそ、際立つ企画をやるのにはいいんじゃないでしょうか。そしてスープストックがそうだったように、小さなスペースをうまく使うこともできるから、鉄道会社にとっても損はないはずです。

スマイルズはネクタイ専門店「giraffe」も展開している ©榎本麻美/文藝春秋

「特定行商人」っていうのはどうですか

――遠山さんだったら、駅の小さなブースで何をしたらいいと思いますか?

遠山 なんでもいいんですよ。技術があればそれを活かせばいいし、ないならないでアイデア勝負。人生相談を4000円でやりましょう、1坪の空間で家族写真を撮る「ひとり写真館」とかなんでもいい。

 あと、昔の行商人のおばさんの拡大版みたいな感じもいいかな。籠を担いで青森で名産品を仕入れて次は鳥取に行ってブースを開いて、売り切ったら鳥取で仕入れて次の町へ……。もちろん名産品だけでなくていろんな情報を伝えたり、出会いもあったりして。ときどき駅のコンコースで地方の名産品を売ったりしているじゃないですか。あれを個人個人がやるっていうのもいいですよね。アイデア勝負で話を聞いたりするのもいいけど、行商人みたいなことをしたらもっと喜んでくれる人が多くなる。

――どういう名前を付けましょうか。

遠山 「特定行商人」っていうのはどうですか。運ぶのはモノだけじゃなくてもいいという。JR公認の特定行商人がいて、ひとりひとりICカード付きのキャップを配られる。築地の仲買人がかぶっているようなやつですね(笑)。改札を出るときはそのキャップをピッとやって……。

「改札を出るときはそのキャップをピッとやって……」 ©榎本麻美/文藝春秋

――「特定行商人」という旅人たちが全国津々浦々をまわっている感じですね。

遠山 人気の行商人が出てきてテレビで紹介されたり、各地の県知事が「わが町に来てくれ」とアピールしたり(笑)。5~10人くらいの行商人がタッグを組んでも面白いよね。背負っている籠をパタパタっと開くと小さなブースが出来上がって、そこでみんなが集めた特産品を売る。で、3時間くらいで売り切れたら「じゃあ次の場所に行きます」と去っていく。今週は青森、来週は鳥取と全国を渡り歩く。場合によっては、電車の中で行商が始まるとか(笑)。地方では農家の収穫を手伝って野菜をもらったりして。カッコイイじゃないですか。依頼人の依頼に応じて、地域の魅力の伝道師になってあちこちを渡り歩くって。