韓国を中国との連携に追いやっているのは
第五に、歴史問題に関する韓国と中国の連携のことである。
最近日本では韓国が日本を横目に中国に傾いているという見方が多いようである。特に去年の二月に就任した朴槿恵大統領が訪米の後日本を置いて先に中国を訪問したことと、就任から一年以上経っても日韓首脳会談に応じていないということがその背景にあると思う。
韓国外交の基本は米国との同盟と中国との協力パートナーシップ関係をうまく両立させることにある。両者の中でバランスの取れた身の置き方をするのが肝要である。米中の間で難しい選択を迫られるようなことがあってはいけないと思う韓国と、日米同盟を機軸にした中国けん制を当然視する日本とは発想が違うのだ。
日本は民主主義と市場経済の価値観の共有を強調するが、韓国としては地政学的な立場も考慮せざるを得ない。それでもまだ韓国の外交の錘は中国とのパートナーシップより韓米同盟のほうに置かれていると言える。
しかし歴史問題や戦後補償問題になると話は違ってくる。昨年十二月の安倍総理の靖国神社参拝以降、中国の対応は今までとは完全に違う領域に入った。国際的な世論戦を展開しながら、慰安婦問題や強制連行された労働者問題で韓国と共同戦線を作って日本をけん制しようとしている。韓国の被害者や支援団体は当然中国との協力に賛成だ。
でも歴史問題で韓中が連帯して日本に対抗することは必ずしも望ましいものではないという考えが韓国ではまだ多数である。しかし日本の指導者が靖国神社を参拝するなどして歴史問題を浮き彫りにさせると、歴史問題では中国と立場を共有している韓国としては自然に中国と連携するようになる。つまり、日本が歴史問題で「戦線を作る」ことは結果的に韓国を中国との連携に追いやることなのである。逆に歴史問題で戦線が形成されなければ韓国が進んで中国と連携して日本に対抗する可能性はそれほどないと言える。
先日日本の知人に日本が歴史問題で戦線を作るべきではないと言ったら、現在日本には自ら歴史問題の「戦線を作った」という認識はあまりないという言葉が返って来たので随分驚いた。日韓で認識のギャップがこんなに大きいのかと改めて思い知らされた。
このギャップを少しでも埋めるためには率直なコミュニケーションの努力を重ねるしかないと思う。心の中の気持ちを上手く相手に伝達する工夫が必要である。表に出して表現をしないと、お互い分かっているつもりで意外に実は分かっていない場合が多いのだ。
二十年ほど前、東京で開かれた日韓・韓日協力委員会合同総会で韓国側の故申鉉【石+高】理事長が「物言えば唇寒し秋の風」と挨拶で言って日本の聴衆から大きな拍手を受けた。しかし今はそのような日本の美学はあまり通じなくなったような気がする。
一方で最近の日韓関係や日中関係を見ると、首脳までが前面に出て勇ましい発言をするようになった。まるで自分の主張だけを強く言う「メガホン外交」のようで、コミュニケーションの不足どころか過剰に見えるかもしれない。しかし残念ながらこれは相手の考え方を理解しようと努力するコミュニケーションではない。