米国務省が報告書で中国の生物兵器への懸念表明
無論、ウイルスと生物兵器の間にはだいぶ隔たりがある。ただ、そこに現れるのが、米国務省の報告書だ。2019年の報告書で中国が「潜在的に(兵器にも医学にも)併用できる生物学的活動をしている」と懸念を表明しているからだ。
こうした要素を初期に報道したとみられるのは米国議会から支援を受け、アジアでの反共プロパガンダを担ってきたアジア自由ラジオ放送だった。
慎重な報道ではあったが、ウイルスが人為的に製造されたのではないかと示唆する内容だった。これを受け、さらにイスラエル元諜報関係者の実名証言を交えて一大ニュースに仕立て上げたのが米保守系マイナー新聞のワシントン・タイムズだ。
一流紙とされるワシントン・ポストでもニューヨーク・タイムズでもないことに留意されたい。要は少し信憑性の薄い、眉に唾つけて読む必要のある新聞だ。
記事の見出しは「コロナウイルス、中国の生物兵器戦争に関係する研究所から発生した可能性も」。実名証言も報じているが、実際にこのダニー・ショハムなる人物の証言をみると、ウイルスの漏洩については一般的な可能性を指摘したまでで「いまのところそれを示すか推測させるような証拠はない」としているのみ。羊頭狗肉だ。
生物兵器に要求されるのは、味方を傷つけずに敵方を殲滅する「能力」。つまり感染力が限定的で殺傷力が高いことが求められる。
だが、新型コロナウイルスはSARSと比べて感染力が強い割に殺傷力は弱い。仮に兵器だったとしたら、敵方はなかなか死なないかわりに味方に損害が出る、という元々あるSARSにすら能力が劣る落第兵器だ。研究所から漏れた可能性はゼロではないにしろ、兵器説は荒唐無稽とせざるを得ない。