感染者が2003年に猛威を振るったSARSを上回った新型コロナウイルスは、どこから発生したのか。複数の研究が続く中、ウイルスの拡大を遥かに超えるスピードで発生源の流言飛語が拡散し始めた。だが、全く根拠がないわけでもないところが厄介だ。
急拡大する「中国生物兵器説」
インターネット上で急拡大しているのは「中国生物兵器説」だろう。感染拡大の中心地・中国中部の武漢市に世界有数のウイルス研究所「中国科学院武漢病毒研究所」があることが最大の根拠だ。
実際、武漢市での感染拡大が発覚した当初、このウイルス研究所が関与したかどうかについて安全保障の専門家の間でも水面下で議論が進んでいたというから一定の考慮の価値はある。
この研究所は日本を含め世界でも100に満たない最高レベルの安全管理基準であるBSL-4(生物学的安全レベル4)に準拠した施設。フランスの技術が導入され、米国の研究所とも深い連携を結び、ウイルスが逃げないよう空調など万全の施設を整えているとされるのが武漢市の研究所だ。
気になるのは、この研究所に対する警告を米国の分子生物学者が2017年の時点で英科学誌ネイチャーの記事で発していることだ。この学者によると、研究所の発足前に中国ではSARSウイルスが別の施設から何度も漏洩したことがあるといい、別の学者も「透明性こそが研究所の基礎」として閉鎖的な中国での運用を危惧する意見を表明していた。