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「中国でコウモリ食が広がっているから感染した」

 意外と真実に近いのは完全なフェイクニュースである「コウモリスープ起源説」かもしれない。中国人女性がコウモリスープを食する動画を2016年にシェアしていたのだが、改めてネット上で拡散。コウモリはSARSの発生源とされていたことから、新型コロナウイルスも「中国でコウモリ食が広がっているから感染した」との説を形成したのだ。

 ところが、これは全くの嘘。撮影されたのはパラオだったからだ。一方、真実に近いというのはコウモリの部分だ。

 皮肉なことに、新型コロナウイルスの発生源についていち早く、1月23日に言及したのは、「生物兵器説」の犯人として名指しされた武漢市の「中国科学院武漢病毒研究所」。所属する女性医師の石正麗博士らのチームがコウモリ起源説の草稿論文を発表したのだ。

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 この博士は、SARSの起源がコウモリに遡ることを遺伝子情報などで突き止めた御仁。その後もコウモリとウイルスの関係を確かめようと、何年も周辺の洞窟を歩き、コウモリの糞を採取してはウイルスの有無を調べる研究を続け、2017年には人間への感染は未確認の別の新型コロナウイルスまで発見しているのだ。

 その博士が発表した今回の論文でもこの別のコロナウイルスが登場する。新型コロナウイルスの遺伝子情報はSARSウイルスとの類似性は79.5パーセントに過ぎないが、この別のコロナウイルスとは96パーセント一致するというのだ。それをもって石博士らのチームは新型コロナウイルスがコウモリ由来だったと推論する。

発生源はコウモリ? ©AFLO

 コウモリ発生源を強く示唆する内容だが、発生源の問題はまだ残る。というのも、コウモリから人にどう感染したかの経路が未解明だからだ。

 当初から多くの感染者が武漢市の海鮮市場に行っていたことが発表も報道もされていることから、コウモリと接触した野生動物を市場で買って食したことが原因の可能性が指摘されているが、前回記事でも触れた通り、最初期の感染者41人のうち14人はそもそも市場と接点がないことが医学誌ランセットの論文で指摘している。

 しかも、12月はコウモリの冬眠時期で、野生動物にしろ、接触の機会はかなり限られる。発症時期などから、すでに10月時点で人の感染者が出ている可能性を指摘する研究者もいる。

 いったいウイルスに最初に接触した新型コロナウイルスの「アダム」は誰なのか。そして、そのアダムにウイルスを媒介した生物は何なのか。解明が進まなければ、今後も動物を媒介した接触が再発することすら考えられる。陰謀論で盛り上がっている場合ではないのだ。