とべたまこと/1978年福島県生まれ。お笑い、格闘技、ドラマなどを愛するテレビっ子ライター。2015年にいわき市より上京。著作に『タモリ学』『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』『コントに捧げた内村光良の怒り』などがある。

「僕は年表マニアなのですが、テレビ番組史の年表を眺めていて面白いことに気が付いた。1989年にお笑い界で大きな世代交代が起こっているんです。『オレたちひょうきん族』が終わり『ガキの使いやあらへんで!!』が始まった。またとんねるずの『みなさんのおかげです』、『ねるとん紅鯨団』が人気を得る一方、その裏番組だった『ザ・ベストテン』、『今夜は最高!』が終了に追い込まれている。ドリフやBIG3相手にお笑い第三世代が台頭していたこの時期は、いわば『テレビの青春時代』なのではと僕には思えたんですね」

『1989年のテレビっ子』はそんな激動の年を中心に、80年代~90年代のお笑い番組史を俯瞰したノンフィクションだ。書いたのは「てれびのスキマ」名義でライターとして活躍する戸部田誠さん。1978年生まれで、89年当時は11歳。本書で取り上げられている多くの番組について、決してリアルタイムですべてを見ていたわけではない。

「例えば第三世代でも、ダウンタウンやウッチャンナンチャンに比べると、とんねるずは直撃世代というわけではないですね。僕が物心ついた時にはすでに2人は大スターになっていましたから。とんねるずはインタビューなどの資料が圧倒的に少なく苦労しましたが、その分新たな発見があり書いていて楽しかったです」

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 本書のユニークな点は、すべてが引用で構築されているところ。関係者への取材は一切行わず、当時の映像や雑誌のインタビューなど、膨大な資料から採集されたお笑い芸人のエピソードだけで構成されている。

「徹底的に視聴者目線に立つことを意識して本を作りました。と言うのは、ここで書かれていることは一般の視聴者が知ることのできる情報のみに基づいているんです。それがテレビっ子だった僕にできる唯一のスタイルなんですね」

 本書を読んでいると、芸人たちの意外な裏側に驚かされる。明石家さんまの若き日の苦労話や、ダウンタウンの番組最終回での号泣事件など、今となっては衝撃的な描写も多い。

「調べてみると、芸人もテレビマンも、みな一度挫折して這い上がってきた人ばかり。近年視聴率トップの日テレにだって暗黒の時代がありました。今、フジテレビの凋落が話題になっていますが、やっぱりフジに元気がないとテレビが面白くないので再起を期待したい。そんな僕なりの応援の気持ちを、この本には込めたつもりです」

80年代マンザイブームから、90年代日テレバラエティ全盛期まで、日本のお笑い史を網羅した1冊。登場する芸人もたけし、さんま、タモリ、加トケン、紳助、とんねるず、ウンナン、ダウンタウンと多彩。60年代が舞台の名著『テレビの黄金時代』(小林信彦)以降のテレビ史を描いた意欲作でもある。