「昨年のデビュー作『君の膵臓をたべたい』は、これでウケなかったら何を書いたらいいか分からないというくらい、読者を意識して書きました(笑)。でも当時、4つくらい新人賞に応募して、どれも一次選考を通らずに落ちてしまって。それがショックで、とにかく自分の好きなものを全て詰め込もうと思ってこの作品を書き始めました」
余命幾ばくもない少女と地味で根暗な少年との交流を描いたデビュー作が、早くも40万部を突破。既存の文学賞ではなく、小説投稿サイト「小説家になろう」で才を見出されたユニークなデビューも話題を呼ぶ住野よるさん。第2弾は、学校に友達のいない少女の幸せを巡る葛藤の物語だ。
「もともとチャーリー・ブラウンとかクレヨンしんちゃんみたいな、純粋さゆえに鋭いタイプの子供が好きで、小生意気なキャラを書きたいと思って生まれたのが主人公の奈ノ花(なのか)です。アメリカ映画って子供でもウィットに富んだことを言うでしょう。できるだけ洒落たセリフを言わせたくて、徹底的に言葉を練りました。
最初は奈ノ花が近所の大人に会うだけの話だったんですよ。構想を練っていた頃、僕はずっと小説家を目指してきたのに何の成果もあげられず、1個30円のビスコで空腹を満たすような日々でした。でも、自分のことは自分で何とかするしかないという決意を明確にするために、主人公が、今の自分を悔いている大人達と出会う話を考えていきました」
奈ノ花の出会う大人は自身の未来のようでもあり、インナーチャイルドのようでもある。夢が入れ子構造になった多義的な世界の中で、少女は他者と向き合い、一歩前へと踏み出す。
「不思議なことを不思議なまま説明しない世界が好きで、大人が読む童話にしたかった。作中にも出てくる『星の王子さま』は、僕はいまだに意味が分からない。歳を重ねるごとに感想が変わる小説が好きなんです」
住野さんが本格的に小説を書き始めたのは高校生の時。新しい傾向のライトノベルに強い刺激を受けた。
「西尾維新さんや有川浩さんの影響を受けていますね。ちょうど乙一さんや越谷オサムさんなど、文芸とラノベの中間のような作品群がどっと出てきた、直撃世代なんです。当初ラノベとして刊行する予定だった僕のデビュー作を、版元さんが文芸書として出そうと言ってくれたことが、幸運なヒットに結びついたのかもしれません」
「先生、頭がおかしくなっちゃったので、今日の体育を休ませてください」――利発でちょっと変わった小学生の小柳奈ノ花は、ご近所の手首に傷がある南さんや、格好いいアバズレさんらと仲良くしている。いじめの現場で少年をかばったことで、奈ノ花はクラスで孤立を深めていくが……。感涙の新世代ノベル。