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「自分の中で順序立てて言えない」

 裁判長は「自分は自殺したい。他人の自殺に関与したい。両者はどういう関係にあるのか?」と不思議そうに質問した。すると、北島被告は「どういう関係……」と一言発したものの、首をかしげながら沈黙が続く。

 助け船を出すように「本気と思っていないのになぜメール(事実としてはツイッターのDM)を送った?」とも聞いたが、北島被告は少しイラついた「あまりこうだというのは言えない。甘い考えで送った」とつぶやく。裁判長は意味を理解できず、「詳しく」と繰り返し質問。北島被告は「うーん」とうなり、沈黙の後に言葉を探しながら「自分の中で順序立てて言えない」とだけ答えた。なんとか裁判長も糸口を見つけようとするが、思いと犯行の間に合理性がみつかるやりとりにはならなかった。

東京地方裁判所 ©文藝春秋

 過去の自殺志願者に対する嘱託殺人で見ると、自殺系サイト殺人のMは、自らの性的衝動から。座間事件の白石被告はナンパ行為の繰り返しだ。では、池袋事件ではどうか。北島被告は、弁護側や検察側、裁判所側からの質問に対し、沈黙が多かった。それは、やはり自分の中に答えがないのか。他の事件とは違い、性的な目的はないように感じる。

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 ネット・コミュニケーションは、後から見れば、論理性がないことはよくある。その時やノリがあればこそ、できるやりとりもある。北島被告はこの日の被告人質問で、動機などを隠しているようにも見えない。検察側は精神科の通院歴を質問したが、北島被告は「ない」と答えた。一方、弁護側は精神鑑定をもとめた。

自分が「そこ」にいない感じ

 筆者の印象だが、自殺念慮の理由をはっきり述べるのは女性が多い。男性の場合、女性に比べると、衝動的で、理由は曖昧なことも多く、弱みを言語化することが苦手だ。北島被告についても単純にそう見ることもできる。

 一方で、「自分が自分でない感じ」も受ける。精神医学的な意味での乖離症状かどうかは傍聴だけではわからない。犯行時からなのか、拘禁反応なのかもわからない。

 もちろん、人を殺害した罪に問われているのだから、一定の緊張感はあるのは間違いないが、ぼーっとした様子だった被告といえば、渋谷区短大生バラバラ殺人(2007年1月)で妹を殺害した兄も法廷ではそうだった。秋葉原通り魔殺傷事件(2008年6月)で証言をした加藤智大死刑囚も、似た印象を受ける。自分が「そこ」にいない感じだ。

 座間事件の白石被告に家族へのメッセージを聞いたところ、「忘れてください」と言っていた。一方、北島被告は、父親の面会を断るところを見ると、閉じこもりたい意思の表れなのか、死にきれなかった自分自身の姿を法廷にさらすことへの戸惑いもあるのかもしれない。