「顔向けできない」との理由で父親との面会辞退
心を開いていた人が周囲にはいなかったということか。父親も「これまで話をする機会は多いと思っていたが、本当の考えを聞くことは少なかったのかもしれない」と証言した。
親と話はするものの、相談できない家族関係だったという北島被告。教職への悩みを抱いたことも、採用試験が不合格だったことも、親には話さず、むしろ試験には合格したと言っていた。いずれわかる嘘を隠さなければならないほどの親子関係だったのだろうか。
留置所や拘置所での父親の面会を、北島被告は3回、「顔向けできない」との理由で辞退した。北島被告は、法廷に立つ父親の顔を正面から見ることなく、証言中もやや斜め下を向いていた。
では、北島被告はどのように自殺願望者とやりとりし、被害者をホテルに呼び出すことになったのか。
検察側からまず指摘されたのは、アカウントの数だ。10くらいのアカウントを作り、そのうち、自殺の手伝いや集団自殺を誘ったのは5つ。
明確な目的はなく、なんとなく
どうして、同時にアカウントを複数使っていたのかという問いには、こう答えている。
「同時に使っていたわけではない。投稿していたらアカウントが凍結されてしまった。自殺を匂わせたからかも」
座間事件の白石被告は、拘置所での筆者の質問に、ナンパ目的と答えている。そのために、5つのアカウントを作った。それぞれキャラクターを設定もしている。一方、北島被告は、目的は明確ではなく、あえて言えば、「自殺志願者の、役に立ちたい」からだが、なんとなくやりとりをくり返していたようだ。
DMを送ったアカウントの数としては、北島被告の記憶では「50~60」だが、検察側の指摘では183。この中で、実際に会ったのは、被害者の女性だけ。事件後は、「怖くなって、アカウントを消した」。
白石被告の場合は、ナンパ目的であり、殺害後は見つからないようにしていた。しかし、短期間で繰り返したためか、犯行が明るみになってしまう。
一方、北島被告は、計画性もなく、何かの明確な考えのもとで実行したわけではない。検察から、自殺志願者のやりとりで、性行為の約束や金銭授受をにおわせる内容もゼロではなかったが、それらを主目的とするには数が少なすぎる。
自殺志願者の役に立ちたいという考えのわりには、他の人には会おうとはしていない。本当に役に立ちたいという気持ちがあったのか。なぜ、その中で性行為や金銭授受の話になるのか。たしかに一貫性がないようにも見える。